場面緘黙症(選択性緘黙)とは【詳しい解説と支援】

2022年5月8日

場面緘黙症とは

場面緘黙症/選択性緘黙(SM:Selective Mutism)とは、不安や恐怖により特定の場面において声を発することができない状態が、1ヶ月以上続き、自閉症スペクトラムや統合失調症といった他の障害や疾病による影響でないものを指します。

場面緘黙症は、アメリカ精神医学会が規定するDSM−5という診断基準においては「選択性緘黙」と呼ばれています。また、言語障害ではなく、情緒障害(不安症群)に分類されていることも特徴の1つといえます。

場面緘黙症がある人の多くは、その他の不安障害を併有しています。不安障害には、分離不安障害限局性恐怖症社交不安障害パニック障害広場恐怖症、全般性不安障害などがあります。

また、Kristeinsen(2000)の研究では、場面緘黙症児の50%(26/52名)にコミュニケーション障害の併発があったことが示唆されています。日本の研究でも、高木(2018)にあるように海外研究と同様に場面緘黙症の約半数にコミュニケーションに関する問題があることが示唆されています。

「選択性緘黙」という名称は、「自分の意思で話す場面を選んでいる」というようにも誤解釈できてしまうこともあり、現在でも「場面緘黙症」と呼ぶ人が多いようです。

場面緘黙症の疫学

久田・金原・梶・角田・青木(2016)は、2015年に神戸市の公立小学生77,038名(男子39,614名:女子37,424)に対して大規模な調査研究を実施しています。その結果、男子43名(0.11%)、女子73名(0.20%)、全体116名(0.15%)に発症し、男女比は1:1.7と女子に多いと示唆されました。

2002年にアメリカで行われた調査研究では、約0.7%に発症し、僅かながら女性に多いことが示唆されています。この点は日本の研究と一致します。しかし、日本とアメリカでは文化の違いや対象の基準の違いもあります。これを考慮して考察する必要があります。

場面緘黙症は、2〜6歳頃の幼少期に発症することが多いとされています。保護者が「人見知り」や「恥ずかしがりや」と思うこと、家では普通に会話ができていことが多いため、支援に繋がらないケースがあります。幼稚園の先生から指摘されて支援に繋がることもあるようです。

「人見知り」や「恥ずかしがりや」というのは、あくまで性格的な特徴ですが、場面緘黙症はそれよりも深刻で、強い不安や恐怖によって特定の場面において話せない状態が1ヶ月以上にわたり続くことが診断の基準になっています。

場面緘黙と全緘黙

◆場面緘黙(一定の場面の緘黙)

家では話せるが、幼稚園や学校で話せないという人が多いです。不安になりにくい親友や先生だけの空間であれば話せるという人もいます。一方で「家族とだけ」話せないという逆のケースもあります。人によって話せない場面は様々です。

◆全緘黙(ほぼ全ての場面の緘黙)

場面緘黙とは異なり、他者だけでなく家族と家にいる状況でも話すことができません。話せる人や場面がごく僅か、もしくは全くない緘黙を指します。診断基準では「選択性緘黙」の中に含まれています。この症状は自閉症スペクトラムや他のコミュニケーション障害によるものではありません。

場面緘黙症の症状

◆緘黙と緘動

場面緘黙症の症状としては、不安と恐怖があるために話すことができないことが診断基準にあります。一方で身体がガチッと硬直して動かせなくなる緘動(かんどう)が現れる人もいます。

◆社会生活や学校生活への支障

場面緘黙症は、緘黙と緘動が主な症状ですが、不安や恐怖による行動制限が多くあります。店や役所にいくこと、予約(電話)をすること、恋愛(交際)などに困難を示します。

仕事においては、就職活動への抵抗、仕事内容の限定など仕事選びが上手くいかないことが多く、自己実現しづらい現状があります。

学校においても、友達がつくれない、発表や話し合いができない、わからない問題があっても質問できないなど、困難が多いです。また学業成績にも影響があり、不登校の要因にもなります。

◆ひきこもりと不登校

不安が多く、相談することも難しいために、ひきこもりや不登校に至ることが危惧されます。不登校支援については、下記のリンクを参考にしてください。

不登校の初期対応完全マニュアル

◆うつ症状

悩みを一人で抱え込むしかなく、支援も得られづらいことから、うつ病などの精神疾患に至ることがあります。

■場面緘黙症の程度としては、頷きや首振りで意思表示できる人もいれば、緘動により意思表示ができない人もいます。親友となら話せるという人もいれば、全緘黙の人もいます。軽度であれば、学校でも教室に限り発表は何とかできるけど、雑談はできないなど、例外的に話せることもあります。

場面緘黙症の原因

原因としては、不安感情をつかさどる扁桃体が過敏に働くことが原因であるという説が有力です。これに加え、物事の判別がつきにくい幼少期に発症しやすいことを踏まえて、遺伝要因があるとも考えられています。

遺伝要因の説明としては、家族に不安を抱きやすい人や場面緘黙症の経験がある人がいる場合に発症することが多いとされています。

また遺伝要因と環境要因が揃ったときに発症しやすいという指摘もあります。環境要因としては、親に喋ることを厳しく遮られたり、友達に声をからかわれたり、発声することに対して不安や恐怖を抱きやすくなるエピソードが語られることもあります。

心的外傷後ストレス障害や解離性同一性障害による研究でも、発声することができなくなるケースが報告されており、これも一種の緘黙症状であると考えられています。

場面緘黙症の診断

A「他の状況で話せているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会状況において、話すことが一貫してできない。」

B「その障害が、学業上、職業上の成績、または対人的コミュニケーションを妨げている。」

C「その障害の持続期間は、少なくとも1ヶ月(学校の最初の1ヶ月に限定されない)である。」

D「話すことができないことは、その社会状況で要求されている話し言葉の知識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。」

E「その障害は、コミュニケーション症では、うまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。」

■コミュニケーション症というのは、小児期発症流暢症(いわゆる吃音症)などを指しています。また自閉症スペクトラムにおける社会的コミュニケーションの困難、知的な遅れによる発話のない状況や統合失調症における幻聴による無言などとは、別に扱うということが示されています。

場面緘黙質問票

場面緘黙質問票(SMQ−R:Selective Mutism Questionnaire-Revised)は、場面緘黙症の支援団体「かんもくネット」が作成した質問紙です。

SMQは、Bergman, Keller, Piacentini, and Bergman(2008)が作成して、それを「かんもくネット(2011)」が日本版に翻訳したものがAMQ−Rです。

場面緘黙質問票は、幼児期の子どもを想定しており、保護者が回答します。下記のリンクからご覧ください。

『場面緘黙質問票:SMQ−R』

場面緘黙症の診断の困難さ

場面緘黙症の診断を受けるためには、自閉スペクトラム症との鑑別が行われたり、知能検査が行われたりすることがあります。しかしながら、場面緘黙症児は、病院で医師と話すことが難しいため、診察や知能検査を受けられないことがあります。

診察や知能検査で話せないということで、医師は安易に診断をつけることができません。場面緘黙症は、自閉スペクトラム症や統合失調症、知的障害などとは異なる支援が施されるため、誤った診断があると支援者が混乱する場合もあるからです。

場面緘黙症と自閉症スペクトラム鑑別の必要性についての考察

場面緘黙症への誤解

よくある誤解として「発表のときは話せている」や「特定の友達と話している」から場面緘黙症ではないだろうという誤解があります。場面緘黙症は、話せない状況に例外があることが多く、ただ話せない状況下では一貫して話せません。

例外としては、「頷きや首振りで意思表示ができる」「不安を感じにくい親友や支援者の前では話せる」「発表のときは迷惑をかけまい、注目されたくないという心情から何とか話すことができる」などがあります。

場面緘黙症の治療

主に投薬療法と心理療法が用いられています。

投薬療法においては、抗うつ薬が用いられることもありますが、場面緘黙症の根本を治療するというよりは、不安を抑えることや場面緘黙症による精神疾患に対する治療が目的になっています。

段階的暴露療法

心理療法においては、段階的暴露療法という行動理論に基づく心理療法が用いられています。暴露療法では、あえて不安場面に晒すことで行動に適応することを目的とします。

段階的暴露療法では、それをスモールステップで行います。不安階層表と呼ばれる不安を感じる場面の不安の程度をレベル別に書き出していき、表をつくることで、段階的な目標が視覚的に捉えられるようになります。

これにより治療への道筋がみえ、カウンセラーとともに階段を一段ずつ上るイメージで治療が進められます。また、心理療法に対する不安を抱くこともあるので、情緒支援と平行して行うことが大切であるとされています。

刺激フェイディング法

また、刺激フェイディング法というものもあります。こちらも行動理論に基づく心理療法です。刺激フェイディング法では、不安場面を想定した上で、その不安場面の直面可能なレベルを見つけて、そのレベルでFade−inとFade−outを繰り返していき、不安場面に対する境界をなくしていき、発声に対する不安や抵抗そのものを無くしていきます。

セルフモニタリング法

日本ではあまり実践例がありませんが、音声・映像によるセルフモニタリング法が選択されることもあります。これは、音声や映像を録画・録音して、話しづらい場面や不安を感じる場面を、後に自分で振り返る方法です。カウンセラーとともに対策に関する意見を出し合うことで、その場面における不安を軽減します。

レスポンス・イニシエーション

これも日本では、あまり実践されていない行動療法におけるアプローチです。セラピストと子どもが1対1で部屋に入り、1日中ともに過ごします。なるべく筆談は使用せず、セラピストの共感的な語りと子どもの意思表示でコミュニケーションがとられ、また非言語的な遊びを通して、場面への慣れや不安の緩和を図ります。

また、子どもはセッションが終わり部屋を出ようとする前に、必ず1日の振り返りを話すよう促されます。これにより、話さないと部屋から出られないという状況が生まれます。セラピストは、小難しく話をしたりして、自分の言うとおりにすれば、話せるようになって友達も沢山できるなどと子どもに意識させます。

少し強引な方法のようですが、Krohnら(1992)では、実施した子どもは1〜2時間で話せるようになり、4時間以上かかることはほとんどないと報告しています。しかしながら、セラピストの力量による部分が大きく、子どもの後日の影響などを考えると、あまり現実的な方法ではないかもしれません。

作業療法(逆説的アプローチ)

場面緘黙症における逆説的アプローチは、主訴となる「話す」という行為に直接アプローチをするのではなく、周囲にあると考えられる自己表現の機会を増やしていくことで、コミュニケーションへの不安を緩和させることが目的となります。

真下(2021)は、緘黙症状のある社交不安障害(約20年のひきこもり経験あり)の40歳代の女性に対して、逆説的アプローチとしての作業療法を実施し、その事例を報告しています。

女性が好きな手芸を介した作業療法の事例です。許可を得た上で、女性の作品をWEB上に呈示しました。その評価コメントを見た女性は笑顔を見せ、材料の買い出しやバザーでの販売にも挑戦しました。その結果、自発的な発語と電車に乗るなどの外出が可能になっています。

場面緘黙症のカウンセリング

■場面緘黙症に対する段階的暴露療法の有効性については、Oerbeckら(2014)の研究において、3ヵ月の間、介入群と統制群に分けて検討され、介入群のみ有意に発話が増加したことが示されています。介入群では、家族がいない状況で75%の子どもが会話ができるようになったとされています。

場面緘黙症の支援

場面緘黙症は、精神発達が未熟な幼児期に発現しやすいことから、幼稚園や学校での困難により心が疲弊し、不登校やひきこもり、精神疾患に至ることがあります。大きな目的として、これを予防するための支援が必要になります。

支援には、保護者や幼稚園・学校の教員と連携して、場面緘黙症がある個人に応じた支援を施すことが大切です。早期から支援を施すことで、話すことに対する自信が生まれ、改善に繋がるとされています。

一般的に大人になれば改善することが多いと言われていますが、それは個人の努力があってこそであり、単に時間が解決するというわけではないことに注意です。

学校教員へのお願い【学校での支援方法】

■Oerbeckら(2014)の研究において、場面緘黙症の支援に重要とされるのは、①段階的暴露療法、②家庭や学校など生活場面での支援、③家族および教師の連携とされています。

場面緘黙症の支援の困難

場面緘黙症は、認知度が低いです。そのため幼少期の子どもに場面緘黙症が発症しても、保護者が「人見知り程度、勝手に良くなっていく」と思っていて、適切な支援に繋がらないことがあります。

これまでSNSやピアサポートのグループで話を聞いた中で多かったのが、「保育園や幼稚園で場面緘黙症を知っている先生がいて、教えてもらえた」や「ネットで調べて、もしかしてと思って発達支援センターに相談して分かった」などです。

しかしながら、場面緘黙症の専門家という人はほとんどいない状態ですので、場面緘黙症かもしれないということが分かっても、それが適切な支援に繋がっていないという状況に陥ります。

学校の教員というのは、教育に関する法律、教科の教授法、生徒指導論、道徳教育などを大学の教職課程で学びます。その中で特別支援教育や教育心理学も学ぶのですが、おおよそが有名な発達障害や学習心理学などの基礎的な知識です。

ですから、場面緘黙症についての合理的配慮の重要性や支援方法については、知っている先生は極々わずかです。たまに大学や大学院で臨床心理学を専攻していた先生や、過去に場面緘黙症の児童生徒を担任した経験がある先生もいますが、ほとんど偶然の産物です。

場面緘黙症の支援施設

支援を受けられる場所としては、市区町村役所の子ども発達支援課や児童相談所、教育支援センター(適応指導教室)、小児発達科の病院やクリニック、スクールカウンセラーなどがあります。

それぞれ特徴が異なりますが、診断を受けたい場合は医療機関、支援体制を構築したい場合は教育支援機関に相談することをおすすめします。

保護者でも可能な心理的介入

保護者にできる心理的介入についてもお話します。臨床心理学における認知行動療法は、方法論的に考えて、誰でも行えることを目指して作成された技法が多いです。

その意味で、場面緘黙症の支援としての認知行動療法(段階的暴露療法や刺激フェイディング法、セルフモニタリング法)は、カウンセラーから方法を学ぶことで、日常生活で保護者が支援的に行うことが可能です。

ただし、家庭の役割を守ることも支援上重要であることも考慮してください。というのは、場面緘黙症の子どもは、家では話せるというケースが多く、その場合、家は唯一の安心できる場所とも言えます。

保護者が子どもに心理的介入を施すことで、その「安心できる場所」という機能が失われてしまうことがあります。子どもは学校や習い事などで頑張って不安と闘っているわけですので、心理的な負担は大きいです。

ですから、定期的に通いやすい支援機関がある場合は、無理をせず、治療はその機関に任せて、家ではゆっくり休ませてあげてください。

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当ブログでは、場面緘黙症に関する記事を更新しています。その都度、参考にしていただければ幸いです。この記事自体も書籍や研究論文を読みながら、新たに分かったことを更新していきます。下記のリンクから場面緘黙症の記事一覧が見られます。

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参考引用文献

  • 日本精神神経学会(2014)DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引
  • 高木潤野(2018)日本語を母語とする場面緘黙症児における言語・コミュニケーション能力特徴 特殊教育学研究, 56, 4, 209-218.
  • かんもくネット(2011)場面緘黙質問票 http://kanmoku.org/tool.html.
  • 真下いずみ(2021)緘黙症状を呈する長期ひきこもり事例の発語と社会参加に作業療法が有効であった一例, 作業療法, 40 (1),79−86.
  • Bergman,R.L.,Keller,M.L.,Piacentini,J.,&Bergman,A.J.(2008)The development and psychometric properties of the selective mutism questionnaire. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 37, 456-464.
  • Oerbeck,B.,Stein,M.B.,Wentzel-Larsen,T.,Langsrud,Ø.,&Kristeinsen,H.(2014).A randomized controlled trial of a home and school-based intervention for selective mutism:Defocused communication and behavioral techniques.child and adolescent Mental Health,19,192-198.
  • Kristeinsen,H.(2000)Selective mutism and comorbidity with developmental disorder/delay, anxiety disorder, and elimination disorder. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 39,249-256.
  • Krohn,D.D., Weckstein,S.M. & Wright,H.L.(1992)A study of the effectiveness of a specific treatment for elective mutism. J Am Acad Child Adolesc Psychology,31, (4)711-718.