場面緘黙症(選択性緘黙症)とは
場面緘黙症とは
場面緘黙症とは、不安や恐怖により特定の場面において声を発することができない状態が、1ヶ月以上続き、自閉症スペクトラムや統合失調症といった他の障害や疾病による影響でないものを指します。
場面緘黙症は、アメリカ精神医学会が規定するDSM−5という診断基準においては「選択性緘黙」と呼ばれています。また、言語障害ではなく、情緒障害(不安症群)に分類されていることも特徴の1つといえます。
「選択性緘黙」という名称は、「自分の意思で話す場面を選んでいる」というようにも誤解釈できてしまうこともあり、現在でも「場面緘黙症」と呼ぶ人が多いようです。
場面緘黙症の疫学
2000年以降、神戸市で行われた大規模な調査研究により小学生の約0.15%に発症すると示唆されました。また大きな差はないものの、男性よりも女性に多いされています。
2002年のアメリカで行われた調査研究では、約0.7%に発症すると示唆されました。僅かながら女性に多く、この点は日本の研究と一致します。しかし、日本とアメリカでは文化の違いや対象の基準の違いもあります。これを考慮して考察する必要があります。
場面緘黙症は、2〜6歳頃の幼少期に発症することが多いとされています。保護者が「人見知り」や「恥ずかしがりや」と思うこと、家では普通に会話ができていことが多いため、支援に繋がれないケースがあります。幼稚園の先生から指摘されて支援に繋がることもあるようです。
「人見知り」や「恥ずかしがりや」というのは、あくまで性格的な特徴ですが、場面緘黙症は症状が非常に重く、1ヶ月以上にわたり症状が続くことが診断の基準になっています。
場面緘黙と全緘黙
◆場面緘黙(一定の場面の緘黙)
家では話せるが、幼稚園や学校で話せないという人が多いです。不安になりにくい親友や先生だけの空間であれば話せるという人もいます。
◆全緘黙(ほぼ全ての場面の緘黙)
場面緘黙とは異なり、家族と家にいる状況でも話すことができません。話せる人や場面がごく僅か、もしくは全くない緘黙を指します。診断基準では、「選択性緘黙」の中に含まれています。
場面緘黙症の症状
◆緘黙と緘動
場面緘黙症の症状としては、不安と恐怖があるために話すことができないことが診断基準にあります。一方で身体がガチッと硬直して動かせなくなる緘動(かんどう)が現れる人もいます。
◆社会生活や学校生活への支障
場面緘黙症は、緘黙と緘動が主な症状ですが、不安や恐怖による行動制限が多くあります。店や役所にいくこと、予約をすること、恋愛(交際)などに困難を示します。
仕事においては、就職活動への抵抗、仕事内容の限定など仕事選びが上手くいかないことが多く、自己実現しづらい現状があります。
学校においても、友達が作れない、発表や話し合いができない、わからない問題があっても質問できないなど、困難が多いです。また学業成績にも影響があり、不登校の要因にもなります。
◆ひきこもりと不登校
不安が多く、相談することも難しいために、ひきこもりや不登校に至ることが危惧されます。
◆うつ症状
悩みを一人で抱え込むしかなく、支援も得られづらいことから、うつ病や統合失調症などの精神疾患に至ることがあります。
■場面緘黙症の程度としては、頷きや首振りで意思表示できる人もいれば、緘動により意思表示できない人もいます。親友となら話せるという人もいれば、全緘黙の人もいます。軽度であれば、学校でも教室に限り発表は何とかできるけど、雑談はできないなど、例外的に話せることもあります。
場面緘黙症の原因
原因としては、不安感情をつかさどる扁桃体が過敏に働くことが原因であるという説が有力です。これに加え、物事の判別がつきにくい幼少期に発症しやすいことを踏まえて、遺伝要因があると考えられています。
遺伝要因の説明としては、家族に不安を抱きやすい人や場面緘黙症の経験がある人がいる場合に発症することが多いとされています。
また遺伝要因と環境要因が揃ったときに発症しやすいという指摘もあります。環境要因としては、親に喋ることを厳しく遮られたり、友達に声をからかわれたり、発声することに対して不安や恐怖を抱きやすくなるエピソードが語られることもあります。
場面緘黙症の診断
場面緘黙症の診断では、DSM−5によると以下のとおりです。(アメリカ精神医学会,2014 P193)
A「他の状況で話せているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会状況において、話すことが一貫してできない。」
B「その障害が、学業上、職業上の成績、または対人的コミュニケーションを妨げている。」
C「その障害の持続期間は、少なくとも1ヶ月(学校の最初の1ヶ月に限定されない)である。」
D「話すことができないことは、その社会状況で要求されている話し言葉の知識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。」
E「その障害は、コミュニケーション症では、うまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。」
■コミュニケーション症というのは、小児期発症流暢症(いわゆる吃音症)などを指しています。また自閉症スペクトラム症における知的な遅れによる発話のない状況や統合失調症における幻聴による無言などとは、別に扱うということが示されています。
場面緘黙症の診断の困難さ
場面緘黙症の診断を受けるためには、自閉スペクトラム症との鑑別が行われたり、知能検査が行われたりすることがあります。しかしながら、場面緘黙症児は、病院で医師と話すことが難しいため、診察や知能検査を受けられないことがあります。
診察や知能検査で話せないということで、医師は安易に診断をつけることができません。場面緘黙症は、自閉スペクトラム症や統合失調症、知的障害などとは異なる支援が施されるため、誤った診断があると支援者が混乱する場合もあるからです。
場面緘黙症の治療
主に投薬療法と心理療法が用いられています。
投薬療法においては、抗うつ薬が用いられることもありますが、場面緘黙症の根本を治療するというよりは、不安を抑えることや場面緘黙症による精神疾患に対する治療が目的になっています。
心理療法においては、段階的暴露療法という行動理論に基づく心理療法が用いられています。暴露療法では、あえて不安場面に晒すことで行動に適応することを目的とします。段階的暴露療法では、それをスモールステップで行います。心理療法に対する不安を抱くこともあるので、情緒支援と平行して行うことが大切であるとされています。
■場面緘黙症に対する段階的暴露療法の有効性については、Oerbeckら(2014)の研究において、3ヵ月の間、介入群と統制群に分けて検討され、介入群のみ有意に発話が増加したことが示されています。介入群では、家族がいない状況で75%の子どもが会話ができるようになったとされています。
場面緘黙症の支援
場面緘黙症は、精神発達が未熟な幼児期に発現しやすいことから、幼稚園や学校での困難により心が疲弊し、不登校やひきこもり、精神疾患に至ることがあります。大きな目的として、これを予防するための支援が必要になります。
支援には、保護者や幼稚園・学校の教員と連携して、場面緘黙症がある個人に応じた支援を施すことが大切です。早期から支援を施すことで、話すことに対する自信が生まれ、改善に繋がるとされています。
一般的に大人になれば改善することが多いと言われていますが、それは個人の努力があってこそであり、時間が解決するというわけではないことに注意です。
■Oerbeckら(2014)の研究において、場面緘黙症の支援に重要とされるのは、①段階的暴露療法、②家庭や学校など生活場面での支援、③家族および教師の連携とされています。
場面緘黙症の支援施設
診断や支援を受けられる場所としては、市区町村役所の子ども支援課や児童相談所、教育支援センター、小児発達科の病院やクリニック、スクールカウンセラーなどがあります。
それぞれ特徴が異なりますが、診断を受けたい場合は医療機関、支援体制を構築したい場合は教育支援機関に相談することをおすすめします。
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