【場面緘黙症の支援方法】刺激フェイディング法の提案
場面緘黙症とは
場面緘黙症とは、普段は話せるにもかかわらず、特定の場面において声が出せなくなる情緒障害です。アメリカ精神医学会が規定する診断基準であるDSM−5では、不安症群に分類されています。
刺激フェイディング法
刺激フェイディング法は、場面緘黙症児が話せる場面を「発話刺激」、話せない場面を「緘黙刺激」とします。その発話刺激と緘黙刺激をfading-in及びfading-outをしながら、話せない場面でも話せるようにしていく方法です。(園山,1992)
園山繁樹 1992 行動療法におけるInterbehavioral Psychologyパラダイムの有効性ー刺激フェイディング法を用いた選択性緘黙の克服事例を通してー.行動療法研究,18(1),61-70.
今回、提案する刺激フェイディング法は、心理療法でいうところの行動療法に分類されています。場面緘黙症に対する有効性が認められている心理療法は、段階的暴露療法やSST(Social Skill Training)が挙げられます。
場面緘黙症は、不安や恐怖が背景にあるため、行動療法では、その不安や恐怖を感じながら慣れていくような方向性で、考えられています。
fading-in時では、不安や恐怖が高まるため、治療に対する抵抗が示されると推察できます。しかしながら、多くの大人が経験してきたように、入学試験や就職試験の面接など初めは強い不安があり、自身で練習したり場数を踏んだりして慣れていきます。
場面緘黙症児は、不安感情を司る脳の扁桃体という部分が過敏に働くことなどが指摘されており、我々と同様とまではいかない可能性もありますが、十分な有効性があると考えています。
例えば、趙(2019)は、診断がない場面緘黙症と思われる幼児を対象にプレイルームで「学校ごっこ」をするという刺激フェイディング法の実践を行っています。その結果、幼児はカウンセラーとの会話場面で発話ができ、身体的緊張の緩和や表情変化の増加が確認されています。
趙 成河・河内山 冴・園山 繁樹 2019 場面緘黙を示す幼児対するクリニック型行動的介入初期段階における刺激フェイディング法及び随伴性マネジメントの適応.障害科学研究,43,183-192
場面緘黙症児に対する刺激フェイディング法では、幼児が話せる場面を理解する必要があります。話せる場面や話せない場面は、少なからず共通点があります。まずは、それを理解していきます。
次に、発話刺激と緘黙刺激を保護者と一緒に考えていきます。できるだけ具体的に刺激を検討し、それを「学校ごっこ」のように場面を想定して実践していきます。
この際、fading-inとfading-outの境界を意識しながら、徐々に境界をなくしていき、どの場面でも話せるようになることを目指していきます。
個人的には、ユーモアが大切だと思っています。「学校ごっこ」とあるように、皆に注目される場面が苦手でも、ゲーム性を持たせたり、興味のある事柄に関連させたりして、実践することで参加しやすい雰囲気を作ることができます。これにより、不安の緩和ができ、気づいたら幼稚園や学校でも話せるようになっていた、というくらいの実践を考えたいものです。
家庭での実践は可能か
可能ですが、おすすめしません。
カウンセラーに支援を得ながら実践することは、凄く大切です。保護者が気づかない部分に心理学知見から気づいてくれたり、保護者に対する接し方の助言など得られることもできます。また、子どもが成長する過程で、カウンセリングという安心できる場所を作っておくことも重要な支援と言えます。
しかしながら、保護者としては、カウンセリングに通うことは負担にもなります。そこで、刺激フェイディング法を家庭で実践できないかを考えていきたいと思ったのですが、家庭のシステムが崩れる可能性や保護者と子の関係性を維持したほうが治療効果を高めるという点で、「おすすめしない」というのが現時点の考えです。
場面緘黙症の改善は、基本的に時間がかかるものです。幼稚園や学校で緘黙症状がある場合、既に「話せない子」という自己イメージがあり、それを払拭することができず、転校や進学まで改善できないケースもあります。
保護者が頑張りすぎて、保護者と子ども両方に負担が生じてしまっては、関係が上手くいかなくなってしまいます。可能な限り、子どもにとって家庭や保護者の存在は、疲れたときに逃げ込めるシェルター的な役割を維持してほしいと思います。
カウンセリングルームで頑張って、家に帰ったら普段どおりに甘えたりゆっくりできたりすることで、明確な役割わけができ、カウンセリングルームに行ったときは頑張ろうという気持ちにもなりやすいです。
カウンセラーは、できる限り負担のない方法を検討します。日頃の家庭や幼稚園、学校での様子を伺いチームで支援するという心掛けが大切です。
刺激フェイディング法が適すると思われる事例
とあるSNSで、幼少期の子が親とも幼稚園でも場面緘黙症の症状がみられるとのことを投稿された方がいました。掘り下げていくと、親の前でも「話せないモード」に入るらしく、話すべき場面でジッと固まってしまうそうです。幼稚園では仲の良い友達とは話す場面が確認されています。しかし、周りに他の子がいたり、先生がいたりすると話さず、帰りに親が迎えに行くと泣いて拒むような態度を見せるらしいです。
こうしたケースは、僕も初めて知りました。保護者の方の気持ちを想像すると、寂しい気持ちになります。おそらく拒むような態度は、家庭内で話せない辛い状況に戻ってしまうことが嫌なんだろうと推測します。母親のことが嫌いとか、そういうわけではなさそうです。
このケースの支援を考えたとき、刺激フェイディング法が適用できるのではと感じました。つまり、遊びの中で話せる場面が発語刺激、親といて話せない場面が緘黙刺激となるわけで、これを交互に出し入れしたり、割合を考えて小出しにしたりすることで、発語できる場面を広げていけるのでは、と考えたわけです。
とはいえ、僕も刺激フェイディング法においては実践経験がないため、試行錯誤が必要だと考えています。
最後に
長々と話してしまいましたが、場面緘黙症の子がいて、お困りの保護者の方は、カウンセラーの得意な療法を調べてみてください。「行動療法」が得意な場合は、「刺激フェイディング法ってご存知ですか?」と尋ねてもらえば、検討してもらえると思います。
ただ、場面緘黙症に対する心理療法は、子どもの状況やカウンセラーの得意療法によって様々あります。これが1番いいと言い切れるものはありませんので、まずは相談の上、試してみてくださいね。
このブログの著者は、Twitterもやってます。場面緘黙症に関する情報共有をしたい場合は、フォローしてくださると幸いです。【アカウント:@pompombomm】