幼稚園や学校で話せない子ども(場面緘黙症児)への支援・指導方法

2022年3月2日

今回は、「幼稚園や学校で話せない子ども(場面緘黙症児)への支援・指導方法」というテーマでお話します。

検索で、この記事に辿り着いた皆さんは、おそらく幼稚園、保育園、小学校、中学生、高等学校などの教育機関の先生や保護者の方だと思います。

とにかく「話せない子がいる。何とかしてあげたい。どうすればいいのか」と子どものために動き出している方々だと思います。

まず、僕から感謝を申し上げます。話せない子どもにとっては、貴方の優しい思いやりは、凄く貴重で凄く助けになることです。加えて、この記事を最後まで読んでいただいて、支援・指導の一助になれば幸いです。

○○で話せない子どもたち

まず、場面緘黙症(選択性緘黙)という不安症について、お話します。場面緘黙症は、『幼稚園で』『学校で』というように、ある一定の場所や空間において、話せなくなる症例です。特に多いのは、家では普通に会話ができるのに、学校では話せないというケースです。学校だけでなく塾や親戚の家など、家以外では全く声が出ないという方もいます。

場面緘黙症は、選択性緘黙とも呼ばれます。選択性緘黙という名称は、子どもが話す場所を選択しているように捉えてしまいますが、そうではありません。子どものSNSなどを見ると、「話したい」「友達がほしい」「ありがとうが言えない」という悩みを持っていることがわかります。つまり、話したいけど、話せないというのが真意です。

日本の場面緘黙の発症率を調査した大規模研究では、神戸市公立小学校への調査(梶・藤田,2015)があります。男児39,614人のうち43人、女児37,424人のうち73人、合計77,038人のうち116人の発症が認められました。全体の割合でいえば、0.15%です。1000人に1人か2人の割合です。

普段、教育に携わる先生方でも、ほとんどの方が場面緘黙症を知らないという現状があります。これは、保護者の方も同様で、自分の子どもが学校で話せないことは、幼稚園や学校の先生から聞いて、初めて知ることになります。

その上、珍しいので、周りに同じような悩みを持つ保護者もおらず、孤立してしまいます。このように情報が手に入りづらい状況下で、「そのうち良くなるだろう」「人見知りの長期化みたいなものだろう」と思われる保護者の方もいて、適切な支援に繋がらないケースも多いです。

場面緘黙症か発達障害か

場面緘黙症は、発達障害と分けて考える必要があります。僕は、知的障害の子ども通う特別支援学校での勤務経験があります。知的障害があり、社会生活を営む上で、支障がある子どもたちは、知的障害の診断を受けた上で、養育手帳を受け取っています。

養育手帳には、その重症度を表すA1〜C3までのクラス分けがあります。A1が最も重症度が高い子どもです。このうち、B2の子どもは、多少の理解はできるものの、発語がない子もいます。A1になると、指示の理解も難しいくらいだと思います。

場面緘黙症の支援を考える上で、この知的障害の可能性を考慮する必要があります。支援の方法が全く異なるからです。幼稚園や小学校低学年の発達段階では、いわゆる発達障害のグレーゾーンの子どもは、区別が難しいです。

中学生や高校生の場面緘黙症は、手紙によるやりとりが可能で、その文面から知的な遅れがないことが分かります。とはいえ、グレーゾーンの子どもたちは、診断を受けても、障害名がつくことはなく、本人の自覚がない場合もあります。

こうした子たちの支援についても考えていく必要があります。しかし、今回は場面緘黙症の支援について注力しましょう。さて、話を戻しましょう。

場面緘黙症は、発達障害や精神疾患の影響とは、別物だと考えてください。しかし、逆の場合もあることを知っておいてください。例えば、場面緘黙症によって、発達障害と勘違いされてしまうこともありますし、心への負担が大きくなり、うつ病になってしまうケースもあります。このため、場面緘黙症を正しく理解し、早期発見、早期支援に繋げることが重要です。

場面緘黙症児の支援と指導

場面緘黙症の子どもたちの困り事は、注目を浴びる不安、話すことへの不安、イジメが多いことです。不安というと、誰でも感じるものですが、場面緘黙症の子どもたちが感じている不安は、おそらく僕たちが想像できないほどの不安で、恐怖に似たものだと考えています。

「頑張ったら話せる」という次元の話ではないのです。中には、緘動といって、身体が固まってしまって動かせなくなる子もいます。

幼稚園の発表会、小学校でいえば、近年ではグループワークが流行りです。本読みや合唱祭、文化祭のような注目を浴びる場面、会話が強制される場面は、場面緘黙症の子どもたちにしたら、地獄のような時間になります。

僕も、教育実習の時に、場面緘黙症の子がいるとは知らずに、グループワークをやってしまい、可哀相な思いをさせてしまったことがあります。

もし、場面緘黙症の子どもが学級や身近にいる場合、保護者と連携を図ってください。保護者が場面緘黙症を知らない場合もありますので、そのことを伝えてあげるといいと思います。

子どもの場面緘黙症の診察は、小児科、小児精神科、小児心療内科などで受けられると思います。しかしながら、日本には専門家と呼ばれる方が少ないです。できれば、ネットでよく調べ、良さそうな病院やクリニックを選ばれるといいと思います。

診断を得られた場合、学校での支援はしやすくなるのではないでしょうか。周囲の理解が得られやすく、学校全体で合理的配慮を行うことができます。一方で、場面緘黙症の子ども本人が、周りに知られたくないという場合もあるので、その場合は、子どもたちには周知せずに教員間だけで情報共有と合理的配慮を進めること大切です。

とにかく、本人の意思を確認してから、支援を施すようにしてください。まずは、「学校にしてほしいこと、避けてほしいこと、を教えて」と手紙を書くように話をしてみてください。小学生の低学年くらいまでは、手紙を書くのが難しいと思うので、保護者にも協力を得て、自宅で保護者と一緒に書いてもらうか、保護者に電話で伝えてもらうなどするといいと思います。

よくある支援と指導は、

  • 本読みや発表は挙手制にする。
  • グループワークなどの班は仲の良い友達と一緒にする。(仲の良い子の承諾を得る。)
  • 文化祭や合唱祭の立ち位置を目立たないところにする。
  • 行事に出ることが難しい場合は、先生の近くにきて服を引っ張るなど合図を出す。最悪、行事は休んでもいい。
  • 先生に手紙を出せる。(自分で渡しに来られない場合は、先生が「今日は手紙ありますか?」と受け取りに行く。)
  • 辛いときは、机に伏せるなど、先生に合図を送る。

などです。これらは実際に行われた支援方法です。場面緘黙症の知識がない教員は、あえて話をさせようとしたり、本読みをするまで立たせたり、という方もいるようですが、これは完全なNG行為です。

それでなくても、不安や恐怖によって、行動が制限されてしまっている子どもたちです。自分ではコントロールできないのです。その上で、無理やり話させようとしてしまうと、話すことへの不安や恐怖が強化されてしまいます。

加えて、その授業そのものや教員というカテゴリ、学校そのものがトラウマとなってしまい、不登校やPTSDといった精神疾患に至るケースあります。また、手紙のやりとりは、イジメの抑止力にもなりますし、早期発見にも繋がります。

教科指導の話をしますと、場面緘黙症の子どもたちは、自己表出したい気持ちは根底にあるので、体育や音楽といった注目を浴びる時間は苦手ですが、それ以外の学業はとても頑張ります。

親や先生に褒められたい、友達に評価されたいという子どもらしい気持ちは、ちゃんと持っています。苦手がある一方で、勉強であれば頑張れるという子どもが多いようです。

場面緘黙症の治療

頑張ったら褒めてもらえるという体験は、間違いなく人生に有益です。また、場面緘黙症の改善においても、役に立ちます。場面緘黙症は、投薬治療では改善しないと言われています。不安を抱きやすいというのは、脳の扁桃体の敏感さが指摘されていますが、その薬はまだないようです。

多くは、歳を取るにつれ、社会性が向上してくるとともに、改善していきますが、大人になっても緘黙が続くケースや、改善したけど後遺症が残っているというケースもあります。この意味では、やはり支援は不可欠です。

治療については、臨床心理学における認知行動療法やSST(Social Skill Training)が有効との報告があります。不安な場面を段階的に練習していったり、話すコツなどの指導を受け、社会性を向上させることで、話すことや注目されることへの不安や恐怖を軽減させていくという方法です。

この治療自体、本人に「話したい」「治療を頑張りたい」という意思が必要です。話さないことを理不尽に怒られたりして、この意思がなくなってしまうと、改善は難しくなっていきます。一方で、褒められた経験は、「頑張ればできるかも」という動機づけに繋がります。

このように場面緘黙症の子どもたちにとって、最も助けになるのは、理解ある先生に出会えることです。この記事を読んでいる先生方は、少なからず場面緘黙症を理解しようとしている方々だと思います。

ぜひ、今後も勉強を継続していただいて、子どもたちの将来の幸せを支援してあげてください。

最後に

日本では、場面緘黙症の研究論文は少ないです。先生方の経験は、凄く価値のあることです。僕は、Twitterもやっていますので、ぜひ事例として、いただきたいです。また、支援や指導でお困りでしたら、微力ですが、力になれると思いますので、ぜひ気軽にメッセージを送っていただければと思います。

チームで、子どもを支えていきましょう!

当ブログのカテゴリに「場面緘黙症」を用意しました。関心のある方は、ぜひ一読ください。

▽場面緘黙症の専門家として、高木先生は有名です。

こちらもとても参考になります!丹先生は臨床心理学領域で広く活躍されている先生です。