場面緘黙症と自閉症スペクトラムの鑑別の必要性についての考察

2021年3月8日

こんにちは。中津と申します。僕は大学院で臨床心理学を学び、教員を3年やっていました。特別支援学校での勤務経験もあります。その後、カウンセリングのお店を個人開業しました。

これまでの場面緘黙症、自閉症スペクトラムの支援をしてきた中で、当事者の子ども、その保護者の方にお話を聞いてきました。その際、場面緘黙症と自閉症スペクトラムを混同して考えている方が多くて、適切な支援に繋がっていないケースがありました。

以上の理由から『場面緘黙症と自閉症スペクトラムの鑑別は必要か』というテーマで記事を書かせていただきます。あくまで個人の考察として捉えていただきたく思います。(2021年1月)

場面緘黙症

【内部リンク】場面緘黙症とは

場面緘黙症は、特定の場面において話すことができず、学業や仕事に支障が出る状態が少なくとも1ヶ月以上の連続性がある状態を指します。

場面緘黙症の多くは、幼少期に発現し、家では話せるけど幼稚園や学校で話せないというケースが多いです。

その原因は、人前で話したり注目を浴びたりする際に生じる不安と恐怖です。場面緘黙症ではない人も発表したり責任ある場面では不安や緊張があると思いますが、その程度が異なります。

当事者の多くは、「声を出そうと思っても喉が詰まる」と話されます。場面緘黙症ではない人は、おそらく緊張があっても、頑張って話したり笑ってごまかしたりすることができると思いますが、場面緘黙症の人は頑張ってもできない状態にあります。

場面緘黙症は、不安感情を司る脳の扁桃体という部分の機能が過敏であるという説が有力です。

自閉症スペクトラム

【内部リンク】自閉症スペクトラムとは

自閉症スペクトラムは、行動や物事へのこだわり、社会的コミュニケーションの困難があります。

コミュニケーションの困難という部分では、場面緘黙症と共通しているわけですが、その内容は異なります。

自閉症スペクトラムでいうコミュニケーションの困難とは、会話の主題が捉えられない、会話よりも自分の話したいことを話してしまう、相手の気持ちや感情を考えた会話ができないなどの特徴がみられ、人間関係が上手くいかなくなることがあります。

自閉症スペクトラムは、胎児期に始まる脳発達の異常によって発症すると考えられていますが、発症のメカニズムはほとんど不明であり、また根本的な治療法は存在しません。(日本医療研究開発機構HP

鑑別の必要性

場面緘黙症と自閉症スペクトラムを考える上で、保護者の方が誤解されているのは、場面緘黙症と自閉症スペクトラムが併有するかということです。

場面緘黙症の診断基準を見ると、『その障害は、コミュニケーション症では、うまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。』とあります。

つまり、自閉症スペクトラムにおける社会的コミュニケーションの困難の影響による発話のない状態、発話を意図的に控えている状態とは、別に扱うという解釈ができます。

また、場面緘黙症は扁桃体、自閉症スペクトラムは脳発達の異常されているので、この説で考える場合は、別の障害であると言えます。

併有に関しては、考え方によっては、あり得なくはありませんが、自閉症スペクトラムの連続性の中にある1症状として「緘黙」があるという解釈が妥当だと思います。

治療の話をすると、場面緘黙症は成人するまでに改善し、話せるようになるケースが多いです。場面緘黙症における扁桃体の過敏性というのは、「不安を感じやすい」ということであり、訓練で不安を緩和させることで改善できることがあります。治療には認知行動療法が有効とされ、段階的暴露療法や刺激フェイディング法などの有効性を示唆する研究論文もあります。

一方、自閉症スペクトラムは、脳の先天的な発達異常が原因で、改善するというよりは、上手に付き合っていくという方向性で多方の意見が一貫しています。

以上の理由から個人的には鑑別をしたほうがいいと思います。

鑑別による支援の変化

鑑別をすることで、まずは支援の在り方が変わると思っています。場面緘黙症の支援者は日本に少ないわけですが、自閉症スペクトラムの支援者は沢山いらっしゃいます。支援の幅が広がることが期待できます。

また、場面緘黙症と思って治療を受けたとして、実は自閉症スペクトラムだった場合には、場面緘黙症の支援として適切な療法を施したとしても効果が見込めない可能性があります。

ただ、自閉症スペクトラムの子たちも、コミュニケーションの練習をすることで、系統的に人との接し方を学ぶことはできると思います。その可能性も考慮していただければと思います。

しかしながら、場面緘黙症に有効な認知行動療法と、自閉症スペクトラムに対するSST(Social Skill Training)は異なります。この適用については、アセスメントを受けて支援の方向性を考える必要があります。

鑑別の難しさ

場面緘黙症、自閉症スペクトラムとも幼少期に分かることが多く、幼少期の子どもの特性の違いを見つけるのは難しいです。少なくとも小学生くらいで鑑別ができると思います。

場面緘黙症も自閉症スペクトラムも心理検査があります。日頃の生活の状況や心理検査の結果などから総合的に解釈して鑑別できます。ただし、緘黙症状がある場合、心理検査を行うことができないことがあります。これにより診断が下りないことも多いようです。

個人的には、鑑別は必要だと思いますが、最悪、診断は下りなくても支援はできると思っています。この子は場面緘黙症だろうと想定して認知行動療法を施す、自閉症スペクトラムかもしれないと想定してSSTを施す、このように遠回りではありますが、より効果的な方法を試してみて、その効果を検証しながら長い目で支援していけば、どちらにせよ子どものためになります。

ただ、間違った方法を気づかずに施し続けるのは、有効ではありませんよね。これは、注意するべきだと思います。

最後に

長い記事になってしまいましたが、以上が僕の考察です。皆さまはいかがお考えでしょうか。支援に対する考え方は様々で、子どものためを思えば、無意味なことはないと思います。しかしながら、少しでも有効性が高く、子どもに適した、良い方法を考えたいものですよね。

もし、この記事を読んで、情報共有をしてくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひご協力ください。Twitterをやっていますので、メッセージをいただけると幸いです。【@pompombomm

また、他にも場面緘黙症についての記事を書いています。僕の知識や考え方も更新されていますので、その旨をご理解いただき、読んでいただけたらと思います。【カテゴリー(場面緘黙症)