場面緘黙症(選択性緘黙症)とは【特徴と支援】
場面緘黙症とは
場面緘黙症の発症は幼少期に多いと言われています。日本で行われた大規模研究において、小学生の0.15%が場面緘黙症を有することが示唆されました。かなり少ない確率ですが、Twitterでも沢山の当事者の方と出会うことができ、保護者や支援者はコミュニティを作って支援に注力している様子も伺うことができます。
場面緘黙症の子どもは、不安を抱きやすい性格特徴があります。これは、脳の不安感情を司る扁桃体という部分が過敏であるためという説が有力です。診断基準は、アメリカ精神医学会が規定するDSMに記載されています。
場面緘黙症は「人見知り」「恥ずかしがり」ではない
場面緘黙症で、特に多い症状は、家(家族間)では一般の子と同じように話すことができるにもかかわらず、学校や塾といった家以外の場所では、話せなくなるというものです。幼少期では親の後ろに隠れたりするなど、人見知りや恥ずかしがりと言われるような状態があります。それが児童期になって、周りの子どもたちが元気に遊んだり話したりし始める中でも、話せない状態が続きます。
周囲の人から「もう〇〇歳なのに、なんで話さないの?」と言われてしまうこともあります。小学生や中学生、高校生になっても、話せない子もいて、大人になるまでに改善する例が多いですが、大人になっても雑談が苦手、仕事に支障も出るという状態が続く方もいます。
「話せない」というのは、不安があって自己表現を控えているというのではなく、口元が動かせなかったり、喉で発生できなかったりして、「声が出せない」というイメージです。
当事者の声としては、「友達もほしいし、何かのきっかけがあれば、話せるようになりたい」というものが多く、青年期で友達と楽しく過ごすこと、困ったことを友達と共有して助け合うこと、を理想としています。一方、話せないことで、行動の幅が狭くなり、学校生活を楽しめないと悩む学生が多いようです。
場面緘黙症の学校での支援の困難さ
保護者の支援の失敗で多いのは、「家では話せるから学校でも話せるはず」という期待を子どもに押し付けてしまい、子どもが学校で孤立してしまうケースです。場面緘黙症は、周囲から理解が得られにくいものであるので、保護者も周りに相談できずに、十分な支援体制が整わないまま、学校に通わせ続けてしまいます。
支援体制を構築するためには、できるだけ色々な相談機関に支援を求められるといいと思います。場面緘黙症の専門の相談機関というのは、なかなかありません。スクールカウンセラーや他機関の臨床心理士の方のカウンセリングを受けることで、改善のヒントが得られる場合もあります。幼稚園や小学校の先生にも支援をお願いするとよいと思います。
しかしながら、教育関係者でも、場面緘黙症の知識を有している方は少なく、大学の教員養成の講義や研修でも、扱われることはほとんどありません。このため学校によって、支援の幅は大きく異なります。知識がないために理解が及ばない教員がいてもおかしくないのです。では、どうすればいいのでしょうか。
まずは、カウンセラーに相談して、子どもが学校生活を送りやすくなる工夫を考えてください。その案を担任を通して、学校全体に支援をお願いして、子どもへの接し方や課題の出し方などを検討してもらってください。これは、教育の領域では「合理的配慮」と言われ、特に特別支援教育では積極的に取り入れるように推進されています。一般校では、「合理的配慮」という言葉は知っているけど、その具体的な方法までは知らないという教員が多いと思っています。
加えて、場面緘黙症は、見える障害ではありません。心の病気や知的障害であれば、診断書があれば教員は「合理的配慮」という確かな理由で支援ができます。しかし、場面緘黙症は診断が得られづらいものです。教員がどこまで個人的に対応していいものか迷うことになりますし、他の児童生徒や保護者からも理解されづらいです。
この点を踏まえると、カウンセラーに一筆をお願いして、合理的配慮を学校全体で行ってもらうことを約束してもらうことで、教員は不安なく、合理的配慮を行う体制ができます。スクールカウンセラーがいるのであれば、できるだけスクールカウンセラーを通して、教育支援会議の議題にあげてもらうなどの依頼をするといいと思います。一方で、これは学校全体に子どもが場面緘黙症であることを周知することにもなります。学校教員には、秘密保持の義務がありますので、それ以上の情報拡散は少ないと思いますが、子ども本人が気にするかもしれないので、子どもに承認を必ずとってあげてください。
場面緘黙症を全く知らない教員からすると、「何で話さないの!」と叱ってしまったり、訓練だからと発表の場を設けて、無理やり話させようとしてしまったりすることがあります。しかし、この行為はNGです。心に大きな負担を与え、うつ状態、不登校になるケースも見られます。
場面緘黙症の家庭での支援
第一に、保護者として、子どもの味方でいてあげてください。そして、学校での頑張りを褒めてあげてください。家では場面緘黙症のことには触れすぎず、心の状態を気にしてあげると、学校では出せない愚痴や心配事を聞き出すことができると思います。また、親にも話しづらいことがあるので、そういうときに第三者であるカウンセラーに相談することを促してあげてください。こうした安心できる環境がいくつかあることで、心の負担が軽減できます。
また、家庭訪問や懇談会を有効に使って、先生からも学校での過ごし方など、教えてもらうといいと思います。一方で、学校と家庭が繋がりすぎて、情報が漏れすぎていると子どもが感じた場合、話をしづらくなってしまうので、その点も配慮できるといいと思います。
場面緘黙症の子どもは、学校で凄くたくさんの心のエネルギーを使っています。不安と緊張を抱きやすいため、相当の気疲れをしていることでしょう。また、学校の行事など普段と状況が異なるときは、いつもより不安や緊張を強く感じます。保護者としては、送り出したい気持ちがあるかもしれませんが、「無理しなくていいよ」と伝えるなど、子どもの「行かなきゃ」という焦る気持ちを緩和できるといいかもしれません。
家は、シェルターです。安心できる居場所です。保護者の方の焦る気持ちも理解できますが、家では極力、ゆっくりさせてあげてくさい。
話すことへの恐怖と不安
例えば、場面緘黙症によって、小学校で話せない子がいたとします。
この場合、周囲の児童からは、「〇〇くんは話せない子」という形のないレッテルが貼られているように感じてしまいます(実際にいじめにあうこともある)。そして、時間が経つほどに、「今更、急に話しても、周りの反応がこわい」と予期してしまい、きっかけがあったとしても、躊躇して話せない状態が続いてしまいます。
このことからも、場面緘黙症の支援では、初期の対応が大切であると言われています。周りの児童がからかったりするような環境では、きっかけを掴むことができません。あまり反応せずに、普通に「普段、話している程度に接してくれることが嬉しい」という当事者の声もあります。
「話して」と強要することは効果がなく、むしろ逆効果になります。最悪なのは、他の生徒の前で立たせたまま「〇〇さんが答えるまで待ってるから」と強要することです。これは、話すことへの恐怖を強化し、他の生徒に見られているという焦りが生まれ、話すことだけでなく、集団でいる場面にすら恐怖を感じるようになってしまいます。もし、このブログを読んでいる方でクラスの場面緘黙症の子が同じ状況になっていたら、助けてあげてください。これは僕からのお願いです。
場面緘黙症は、環境の変化で改善できる?
僕が今まで関わってきた場面緘黙症の子どもたちは、話したいという想いを持ちながらも、なかなか勇気が持てない子でした。これは、ずっと指摘されていることなのですが、環境が変わるときは、凄く大きなチャンスだと言われています。入学や転校といった話せない自分を知っている子どもが少ない環境に移ることが、きっかけとなり、話せるようになったケースがあります。
しかし、単に環境の変化だけで話せるようになるわけではありません。「話すことで友達ができる」「話すことで楽しい学校生活を送りたい」このような未来への希望や期待にアプローチしていき、十分に本人の口から「次のチャンスは頑張る!」という意志を固めたのちの、環境の変化が大切です。
つまり、環境の変化はあくまできっかけでしかなくて、本人の希望や覚悟が根底にあることが大切になるのです。この点を勘違いしないようにしてください。環境の変化が良いと思って、無理に環境を変えようとすると、逆に新天地への不安が生まれ、心のバランスを崩しかねません。あくまで、本人の強い意志と心の安定を考慮した上での選択肢だと思います。
そして、多くの場合、環境の変化は進学です。もう少しで高校に進学するというときに、子ども本人が知っている人がいないところを受験したいなど、自らの意思で前進していきます。このタイミングは、たまたま時期がきただけです。無理に環境を変えるわけではありません。
緘黙だけでなく緘動も出現する
緘動(かんどう)とは、緘黙が不安や恐怖によって話せないことと同様に、ガチッと身体が硬直して、行動が妨げられることを指します。
緘動は、緘黙症の方の多くに見られます。不安や恐怖がある場面で、緊張してモジモジするような子もいれば、ガチッと固まって動けなくなってしまう子もいます。周りから見ていると、それほど緊迫した状況に見えないときでも、当人からすれば、酷く胸が締め付けられるような緊張を感じています。可哀想なことに、自分が悪いわけではないのにも関わらず、「また動けなかった。また話せなかった」と罪悪感や自己嫌悪感のような感情を抱くようです。このダブルパンチを受けて、心のダメージが一気に蓄積するのです。
この意味でも、無理やり経験させようとするような支援は適切とは言えないでしょう。もし、場面緘黙症の子どもが緘動の状態になったら、声をかけてあげてください。質問するのではなく、「一緒に〇〇しようか」や「次は〇〇しようね」など、意思決定を代わってあげると緘動が解けるようです。意思決定を強いられる場面でないときは、少し一人になる時間をつくってあげてください。自分で落ち着いて、また普段の状態に戻れると思います。
場面緘黙症のカウンセリング
カウンセリングでは、段階的暴露療法やSST(Social Skill Training)が有効であると言われています。
SSTでは、様々な場面を想定した挨拶の仕方、返事の仕方、リアクションなどを一緒に考え、会話の準備をすることで緊張や不安を軽減させます。その後、それぞれの場面に応じて、具体的に練習をしていきます。
段階的暴露療法については、不安障害全般の改善に効果的であると言われています。段階的暴露療法では、課題を実践して、できることを増やしていくイメージです。
例えば、クラスの子とすれ違うときに、「相手から挨拶されれば会釈できる」→「相手から挨拶されればニコッと会釈できる」→「相手に挨拶されたときに、相手に聞こえていなかったかもしれないけど、少し声が出せた」→「小さい声だったけど、自分から挨拶できた」といったように、少しずつレベルを上げていき、スモールステップで最終の目標まで近づけていきます。
この過程で「話してみたら大丈夫だった。自信がついた。」など成功体験をフィードバックすることで、次の目標も自身で掲げられるようになれることを支援していきます。時間はかかるものなので、上手くいかなくても、焦る必要はありません。その目標設定に関しても、一緒に考えていきます。あくまで本人のペースを大切にしていきます。
特別支援学級という選択肢
小中学校には、特別支援学級が設置されていることが多いです。もし、本人が強いストレスを感じていて、学校に行きづらくなってしまっていたら、特別支援学級への入級を検討してみてください。とはいえ、特別支援学級は、発達障害や肢体障害など診断が得られている場合に、入級することが多いです。これが条件というわけではありませんが、場面緘黙症は社会不安障害という情緒障害の一つで、診断が得られにくいものです。情緒障害や精神障害は、特別支援学級の要件にならない場合もあります。これは、各学校によって異なるようです。特別支援学級の児童生徒数によって、配置される教員の数や教室の数が変わってきますから、教育委員会としては急に人数が増えるのは困ることになります。ですので、年度が変わる前に検討と学校への相談を済ませてください。
SNSにあった保護者様の声では、小学校は特別支援学級に入っていたけど、進学する中学校では入級できないと言われて困っているなど、伺うことがあります。早めに中学校に相談して、それでも入級ができないと言われることもあるようです。こればかりは、何ともできないので、通級に適応できるように訓練しておくか、適応指導教室のような場所を探しておくのもいいかもしれません。
適応指導教室というのは、小中学校に在籍する不登校の子どもや学校に行きづらい子どもが通う市区町村が設置している公的な教育機関です。どうしても通級が難しいと判断された場合は、この適応指導教室も選択肢に入れてみてください。また、フリースクールという選択肢もあると思います。適応指導教室は、通うことで出席日数として認められます。フリースクールも、「在籍している学校の校長が認めた場合」出席日数として認められます。とにかく、子どもにとって負担の少ない、環境を探してみてください。学校の先生やカウンセラーなど良い支援者に出会って、早期に良い支援に出会うことが子どものためになります。保護者様も、大変だと思いますが、早期の支援が大切ですので、何とか頑張ってあげてください。支援上の困難など、保護者の悩みをカウンセラーに聞いてもらったり、家庭での関わり方などの助言をもらうなどして、保護者様自身の心の負担も緩和できるといいですね。
最後に
場面緘黙症の先天的な要因として、脳の偏桃体に過剰な刺激が認められるとの示唆がありますが、そればかりではありません。親が怒鳴って話すのを遮ったり、外国語を話さざるを得ない環境で言語の自信を失ったり、声や笑い方をからかわれたり、そういったことが原因となることもあります。また、診断基準にあるように、自閉スペクトラムや統合失調症などとの鑑別が必要で、特別支援学校や特別支援学級での支援を得るのも有効な手段です。
いかがでしたか?
場面緘黙症の子たちは悩みを抱えながらも、しっかり自分のことを考えています。早期に、適切に、適切な頻度で、支援していきましょう。