不安を緩和する方法【不安障害の支援方法】
今回は、『不安』という感情について、不安障害や場面緘黙症など、不安が関わる障害があることから、その支援の一助となるべく、記事にしてみました。不安を緩和する方法をいくつか紹介します。
不安とは
不安とは、安心や安定が崩れた際に抱くネガティブな感情のことです。不安には、状態不安と特性不安があります。
状態不安とは、皆さんが経験してきたような大勢の人の前で話すと分かったときの逃げ出したい感情、今後の人生にとって重要な場面での何とも言えないこわさなど、自分の状態において生起されるネガティブ感情のことです。
特性不安とは、パーソナリティとして持つ不安の抱きやすさを示すもので、連続性を持つネガティブ感情であると言われています。
つまり、不安を抱くような状態に陥っても、不安に強いパーソナリティを持つ人は、小さな不安でしかありません。逆に、それほど不安を感じないような状況でも、不安を抱きやすいパーソナリティの人には、とても大きな不安を感じることもあります。
不安をどう捉えるか
青年心理学の領域で、青年の心の発達を捉えるものとして、時間的展望という概念があります。
時間的展望とは、未来・現在・過去に向けた心の有り様を示すもので、未来・現在・過去が統合されている青年は、精神的に健康で、現在を充実させ、未来に対してもポジティブなイメージを持っていることが明らかになっています。
この時間的展望を研究している白井先生は、不安は未来への希望があるがゆえに抱く感情であると述べています。
つまり、不安を感じるということは、同時に大勢の前でも上手くやろう、将来の夢を叶えたいなどの希望の裏返しでもあるということです。
特性不安の強い人は、しばしば失敗をおそれ、不安によって身動きがとれなくなってしまいます。これは、未来への希望を持ちながらも、それによって作り出された不安という感情に、とらわれてしまっているのです。
不安に押しつぶされそうになったときは、ぜひ不安の根底にある希望や理想のようなものを思い起こしてみてください。不安と前向きに対峙できるかもしれません。
不安を緩和する方法
不安障害に対する有効な心理療法として、系統的脱感作法や段階的暴露療法があります。また、ソーシャルスキルトレーニングも有効な支援であると論じられています。
系統的脱感作法とは、行動療法の1つで、筋弛緩法などのリラクゼーション法を用い、リラックス状態を体験した後、実際に不安場面に向き合うという療法です。
この不安と向き合う過程を暴露といい、リラクゼーションの過程を省いた暴露療法という形で発展したのが暴露療法です。
段階的暴露療法とは、段階的に不安場面に暴露していきますが、不安場面の階層をクライエントと一緒に表に書きおこし、レベルの低い(クリアできそうな)課題から順に取り組んでいきます。はじめは、カウンセラーや信頼できる家族などと一緒に取り組み、慣れてきたら、一人で取り組むなどして、不安場面に慣れると同時に、不安を解消・緩和する方法を実地で学んでいくことで、徐々に症状が改善されます。
ソーシャルスキルトレーニングとは、社交場面でのコツを身につけ、現実の不安場面を想定して、準備していくことで不安を緩和させることができます。例えば、挨拶のコツ、名刺交換のコツ、自己紹介のコツなどです。
実際には、これらを組み合わせて行うことが大切です。段階的暴露療法においては、不安場面の階層表を自分で作り、家族や友達に協力してもらうことで、実践することができますので、試してみてもよいでしょう。
以上のように、不安と向かい合う方法はいくつかあります。最初に説明した不安に対する考え方を変えるというのも認知療法という療法にあたります。
段階的暴露療法の階層表の例
例として、場面緘黙症の中学生を想定します。登校して教室に入るときや友達とすれ違ったときの挨拶を階層表にしてみましょう。
レベル5 | 挨拶後、立ち話をする |
レベル4 | 自分から声を出して挨拶する |
レベル3 | 挨拶されたら声を出して挨拶する |
レベル2 | 挨拶されたら笑顔で会釈する |
レベル1 | 挨拶されたら会釈する |
このように自分の思うようにレベルを設定して、階層表をつくります。レベルもより細かく設定してもいいですし、やり始めてレベルを追加したり、行き詰まったら、レベルを下げて、継続していくのも十分に効果があると思います。
暴露療法のリスク
暴露療法は、いわば自分の嫌な部分に対峙し、できるように練習していくような療法です。カウンセラーの支援を得ながらであるので、段階的に、不安や恐怖を緩和しながら自分を見つめていくことができるのですが、それでもなお、パニック障害を併ね持つ人にとっては、かなりの負荷になってしまいます。なので、可能な限り、細かく段階を設定すること、暴露療法以外の対話的カウンセリングに切り替えるといった配慮が必要になることもあります。
投薬療法
不安障害には、ソラナックス錠(抗不安剤)、デパス錠(精神安定剤)、ロフラゼプ酸エチル錠(持続性心身安定剤)などが処方されます。
特性不安といっても、性格だけが不安の抱きやすさを決めるわけではありません。不安は大脳皮質の前頭葉でコントロールされます。要するに、先天的に不安を感じやすい体質を持つ人もいるのです。そういう意味で、投薬療法も効果的と言えます。
最後に
不安を緩和する方法として、認知療法、行動療法(系統的脱感作法、段階的暴露療法)、ソーシャルスキルトレーニング、投薬療法を紹介しました。
不安の程度によって、組み合わせることが効果的だと思います。不安障害(不安によって生活に支障が出る)であれば、投薬療法を検討し、精神科を受診してみるといいかもしれません。