公認心理師になってからの勉強方法【論文を読んでほしい!】

はじめに

公認心理師になって、これから心理職として働きたいという方へ向けて、『公認心理師になってからの勉強方法』をお話したいと思います。

「え、書籍を読んで勉強しているけどダメ?」と思われている方もいると思いますが、実はそれだけではダメなんです。

実際に現場で働いてみて、心理職の位置づけによって違いがあるかもしれませんが「理想はこうだ」という方向で話をしたいと思います。

心理学の専門家であれ

公認心理師は心理学の専門家として位置づけられています。公認心理師という資格を持って仕事をするということは、心の専門家として、一般の方や他業種の方にはできないレベルのことをしていかなくてはなりません。

例えば、貴方が公認心理師を持つ学校教員だったとします。他の教員から「Aくんのご家庭から発達検査の結果について相談がありまして…」と相談されました。どのように応じますか?

通常の流れからいうと「学校にはSCがいます。保護者に承認を得た上で、SCと管理職、担任教員、教育相談の担当の先生と掛け合って、ケース会議を開きましょう。」とチーム援助を提案するのが正解と言えます。

一方で、自分に専門家としての自覚が足りない場合は、その場で「ああ、ビネー検査ですか。こうこうこうだと思います。」と自分の解釈を示してしまいます。

これではダメです。心理学を勉強した気になって、その知識を披露したいという気持ちがみてとれます。

心理学の専門家として、解釈をすること自体は悪いことではありません。通常、あらゆる可能性を考え、科学的な根拠を示しながら説明していきます。また、同時に保護者の精神的負荷や支援の実現性についても考慮する必要があります。

プロとしての自覚を持ち、解釈の裏側に確かな根拠を示せるようになってください。

論文を読んでほしい

「本を読んで勉強しています」というのは特別なスキルや経験がなくても、誰でもできることです。また、根拠を求められたときに「本に書いてあったので…」というのは、科学的な根拠とはなりません。

心理学の研究論文は、量的研究と質的研究があります。量的研究というのは質問紙や実験によって数値を扱うことで、信頼性を担保し、再現性の高い結果を得るための研究であると言えます。質的研究というのは研究結果をまとめたり、観察や記録によって行動分析におけるデータをまとめたりする研究のことです。

心理学の研究は、来談者中心療法や行動療法が流行りだした頃から、Evidence(証拠や根拠)が重要だとされてきました。アセスメントやカウンセリングを行う際にも、科学的な裏付けがあることによって、後の治療を分析・継続することの期待値を担保するようになっています。

これまで公認心理師の批判には『大学院で実習等の専門性を学んでいない』という意見がありました。僕は、この真意の1つとして統計学の理解があると思います。

公認心理師試験の勉強をしている方がSNSで『統計は捨てる(勉強しない)』と投稿しているのを目にしました。確かに基準点を超えることで合格することができるため、問題数が少なく得点に繋がりにくい統計に時間を費やすのは非効率的であると言えます。

しかしながら、統計ができないということは少なくとも『私は、量的研究論文は読めないし書けない』と言っているのと同義であると言えます。

統計を理解することができると、書籍に書いてあることの本当の理解ができますし、信頼性の怪しい論文を見極めることもできます。

例えば、尺度を作成した論文で、結果には『概ね信頼性が確認できた』と書いてあった。しかし、因子分析による因子負荷量をみると【.30】以下の質問項目を採用していた。これでは、信頼性が高いとは言えません。因子負荷量は少なくとも【.35】は欲しいところです。

統計を知らない人は、結果や考察の文章だけを見て、この尺度は使えると信じ、そのまま使ってしまいます。本来ならば、尺度の信頼性を改めて検討したのち、項目等を変えて使用します。

たったこれだけのことですが、研究結果は大きく異なってきます。有名な心理検査もマニュアルに因子負荷量などが書いてあります。項目の数値が高いからといって素直にカテゴライズしていると、クライエントの特性が見えなくなってしまいます。

概念の定義に注目

心理学の研究論文には、変数として概念が使われることが多いです。例えば、劣等感と学校適応を検討したとします。概念というのは【劣等感】と【学校適応】のことです。この意味は?と聞かれると、人それぞれ色々な意味を話します。

これでは研究になりません。研究は般化させることが目的でもあるので、その都度に意味が異なっていては同じ結果が得られないのです。理想は、論文を読みながら同じ手順で研究すれば同じ結果が得られるという状態です。

したがって、この研究では【劣等感は○○と定義して扱う】というように定義付けを行います。この定義に至るまでに先行研究を読み返し、劣等感とは何なのかを深く知ることができます。

ちなみに、僕の中で【劣等感】は『自分を理想の自己像や他者と比較し、劣っていると認知したときに生起するネガティブな感情』であると考えています。

当然、この考えに至るまでに、エリクソンの発達課題における【劣等感】、アドラー心理学における【劣等コンプレックス】、ロジャースのパーソナリティ理論における【理想自己と現実自己の不一致】などにも触れています。

たかが概念1つですが、掘り返すと研究の歴史が見えてきます。これを知るだけでも大きな収穫と言えますし、アセスメントやカウンセリングにも深みが増すことでしょう。

統計を知るなら基本から

研究をするレベルの知識は不要です。しかしながら、論文を読むための統計の知識は持っておきたいものです。勿論、きちんと統計を学びたいのであれば、実際にデータを取って統計ソフトを使うのが一番です。

とはいえ、無知の状態から研究を行うとなると、妥当性の検討や概念定義、研究の構想や分析の検討など、少なくとも1年くらいはかかってしまいます。

まずは【論文を読む】ことを意識して、研究結果のところに出てくる『○○分析』や『○○検定』などの方法と数値の見方を理解してください。理解しやすい書籍があったので、紹介します。

量的研究の論文を探して、まずは簡単な分析方法から勉強してみてください。因子分析や相関分析は非常によく出てきます。これが理解できるだけで、多くの論文が読めるようになってきます。

論文のデータを自分なりに解釈しながら論文の結果や考察にツッコミを入れてみてください。これで信頼性は大丈夫なの?この項目の因子負荷量が低いのは時代に合わないからなんじゃない?などです。

最後に

小難しい話ですが、論文が読めないというのはプロとしてどうなのかという視点、加えて論文が読めることで自己研鑽もしやすくなります。

僕も大学院生のときは、何度も論文のレビューをして、師匠に評価してもらっていました。『この数値が気になる。調べてきて。』など、何度も何度も読む訓練をさせてもらいました。

僕のいた大学院の講義は、殆どが論文を読んで予習をしたり、論文を読んでレポートを書いたりするものでした。修士論文を書いたときには、何度も何度も研究の構想を話して、ようやく調査の許可をもらって、質問紙の作成や分析方法も何度も何度も検討して、というかんじに凄く苦労したのを憶えています。

公認心理師の批判に挙げられる『大学院で学んでいない』というのは、こういった苦労をした側からいうと、少し分かる気もします。

とはいえ、公認心理師はあらゆる領域での活躍が期待されているため、大学院での学びの有無はさておき、公認心理師になったあとも自分で学んでいけるかが重要だと思います。

ぜひ、この機会に統計も勉強してみてください。