公認心理師は食えないのか【教員→心理職に転職した立場から】
将来は大学院を修了して公認心理師になりたい!公認心理師を取得して転職したい!という方もいると思います。そこで今回は『公認心理師は食っていけるのか』について僕なりの視点で話したいと思います。
僕は第3回の公認心理師試験にD1ルートで合格し、学校教員から児童福祉施設の心理職に転職した経験があります。この立場から皆さんに向けて記事を書かせていただきます。
公認心理師は食えないのか
僕の意見ですが『食えない可能性は高い』と言っておきます。次にその理由を羅列し、解説していきます。
- ①正規雇用されるのが難しい。
- ②年収が高くない。
- ③公認心理師になるまでが大変で割に合わない。
①正規雇用されるのが難しい
まず公認心理師が食えない最も大きな理由が『正規雇用されるのが難しい』です。
公認心理師は心理資格のなかで初めての国家資格として作られたわけですが、現在でも力を持っている民間資格である『臨床心理士』という資格があります。
臨床心理士になるためには、国が指定した養成大学院を修了して、試験に合格する必要があります。その過程で大学院で実習を受けるなど、カウンセリングの知識や技術を身に着けていきます。
一方で、公認心理師はできたばかりの資格であるため移行期間として、いわゆる『Gルート』による受験が可能です。Gルートは心理相談などの実績を所属の機関の長が認め、現任者講習を受けることで受験資格を得るルートのことです。
この中には、自身でカウンセリングルームを経営している方、幼稚園や学校の教員、福祉施設の支援員、病院の看護師なども実績が認められています。
さて、ここで問題です。
あなたは心理相談業務を主に活躍している会社の人事部長です。今年期の採用枠で2人の面接に応じ、どちらかを合格させることになりました。1人目は養成大学院で訓練を受けてきた臨床心理士・公認心理師の新卒です。2人目は別の業種からGルートで公認心理師を取得した転職者です。あなたはどちらを採用しますか?
僕なら臨床心理士・公認心理師の新卒を選びます。というのも、公認心理師の資格を取得する上でGルートでは実績がどの程度か判断が難しいからです。たとえ確かな実績があったとしても、それを客観的に評価することが難しく、それならば国が認めた養成大学院で名の知れた大学教授のもとで訓練を積んできた新卒の方が安心して採用でき、将来性もあります。
僕は大学院で臨床心理学を専攻していて、臨床心理士の資格は取得していないものの、後に公認心理師を取得して、28歳のときに学校教員からの転職をしました。僕は児童福祉施設の心理職として応募したのですが、その際に面接で以下のように言われました。
『正直に言って、○○さん(僕のこと)ともう一人で迷っています。ですが、先程の心理学やカウンセリングに関する話の中で、確かな知識があると思ったので、○○さんを強く推薦することにしました。』
ライバルであったもう1人は、おそらく僕と同じ転職者でGルートで公認心理師を取得した人だったのでしょう。資格を取得しているとはいえ、心理学の論文を読んで普段から勉強しているか、カウンセリングにおける自己防衛や療法の理解やスキルが十分か、といったところで、差があったのかもしれません。
このように一概に公認心理師といっても、実績や背景のようなことが採用基準を超えていなければ、正規雇用を掴み取ることはできません。
また、全国に公認心理師養成大学院が設置され始めたこともあり、今後は公認心理師が増えていきます。しかしながら、様々な職場において公認心理師は少数でいいわけです。
例えば、児童福祉施設には1人か2人いれば十分ですし、スクールカウンセラーも都道府県に一定数が登録されて、各学校に週1回とか月2回とかの間隔で巡回すればいいという現状です。
このように需要と供給のミスマッチが起こっていて、公認心理師になったけど、正規雇用されないという人が多くなっています。もともと臨床心理士を持っていて、長く臨床や福祉の領域で活躍している公認心理師の方でも、転職を繰り返していたりします。しかも非正規雇用でも溢れてしまった優秀な臨床心理士や公認心理師が後に控えていたりもして、なかなか入り込んでいく隙間がないです。
僕の場合は、タイミングが良く、入社した会社がこれから心理相談の部署を立ち上げようとしていて、運良く採用してもらえたわけです。
②年収が高くない
これは、公認心理師の運用方法に理由があります。公認心理師が相談業務を行うにあたり、大抵の時間設定は相談1件につき50〜60分ほどです。1回の相談を受けると6000〜15000円ほどの収益を生みます。しかしながら、この間は当然のことながら公認心理師は他の仕事ができません。
会社としてはどうでしょう。大学院を出ている公認心理師です。それなりの給料を払わなければ公認心理師は辞めてしまうかもしれません。人件費と収益を考えると難しいところです。沢山の公認心理師を抱えても、相談が来なければ利益は出ません。
普通の会社であれば、これを解決するために、主となる公認心理師を正規雇用で置いて、後は非正規雇用で何とか回そうと考えます。
もし正規雇用の役職つきの立場になれば年収は高くなります。その一方で、正規雇用されなければ年収は低くなります。
公認心理師の年収は?
公認心理師といっても所属する機関や就業形態によって年収が大幅に異なります。
年収が高い方でいうと、病院や公務員として勤務し、正規の常勤で仕事ができる場合は、おそらく年収300〜500万円はあると思います。
年収が低い方でいうと、スクールカウンセラーなどの非正規雇用の場合は、ボーナスがなく、長期の休暇時は仕事が減るため、おそらく年収200〜350万円ほどになると思います。
しかしながら、非正規雇用の場合は、他にフリーランスや個人開業でカウンセリングをしたり、副業をすることで年収を上乗せすることができます。
また、病院や公務員として勤務する場合でも、非正規雇用の場合もあります。就業形態として給与はかなり低くなってしまいます。これは転職サイトで『公認心理師』と検索するとよく分かります。正社員の募集は少なく、アルバイトやパートタイマーの時給1000〜1500円などの求人が多いです。
③公認心理師になるまでが大変
公認心理師になるためには、公認心理師試験に合格する必要があります。公認心理師養成大学院で必要単位を履修した上で修了するか、実績を持って現任者講習を受けるか、どちらかが必要になります。
まず大学院に進学するという点で大変です。臨床心理士や公認心理師を目指す人は多く、それなりの倍率です。大学院試験に合格するには専門の知識のほかに論文を読んだり書いたりするために必要な英語力も問われます。
また学費も考慮しなければなりません。4年制大学に加えて大学院修士課程の2年間ぶんの学費を納める必要があります。しかも公認心理師試験は高難易度です。
臨床や福祉、教育といった領域の知識が問われます。範囲は広く、事例問題も出題されます。大学院の修了者が受ける国家資格だけあって、かなりの難易度になっています。
①②のことも踏まえて、これだけ取得困難でありながら正規雇用されづらく、それに伴い年収も低いかもしれないリスクもあります。近年では返済不要の奨学金もありますが、それでも稼ぎは低いことには苦労することでしょう。
食えない可能性が高い。
ここまで読んでいただいて、僕の『公認心理師は食えない可能性が高い』という話は理解していただけたと思います。
一方で、凄くやりがいのある仕事です。自分の知識を最大限に発揮して悩めるクライエントの人生の役に立つわけで、これほど有意義な仕事はなかなかないと思っています。
また、食えないといっても副業をしたり、非正規の掛け持ちをしたり、個人で稼いだり、工夫をすることで多少は食っていきやすくなると思います。
僕自身、苦労したわりには年収が低いと思っているので、こうしてブログで副業をしています。
僕は苦労して、ようやく正規雇用になれたわけですが、他の業種で働く友人の多くはバリバリ働いて、中堅と呼ばれたり役職がついている人もいます。
この数年で費やしてきた時間と、もっと稼げたであろうお金、この苦労を顧みると『公認心理師は食える』とは言えません。
とはいえ、自己実現のためにも簡単に諦めたくない!という人もいるはず。そこで、僕が実践している副業について書いた記事があるので、一読してください。
非正規雇用でしか仕事が貰えないという人は、その時間を副業に費やしてください。食えないなら食えるようにするという精神です。
公認心理師を目指す方々へ
公認心理師を目指す方々へ。僕の苦労した経験から助言するとすれば、カウンセラーとして生きるだけが公認心理師の生き方ではないと言っておきます。
公認心理師を持っている教員、公認心理師を持っている看護師でもいいと思います。
やりがいも大切ですが、生活を支えることも大切です。職業としての軸を持って、カウンセリングは副業で行う。こうした生き方もアリだと思います。
また、公認心理師として活躍する決意ができるなら、新卒の就職活動を頑張ってください。年齢が上がったり、非正規雇用で実績が思うように積めない状態が続くと、その後の就職が難しくなります。
学生の忙しさから1年目は非正規雇用でいいかと思う方もいると思いますが、それでは後に凄く苦労します。周りを押しのけるくらいの強い気持ちで新卒採用を勝ちとってください。
実績のない転職は難しい
僕が転職した体験を上述しましたが、僕は2社の試験に落ちています。書類選考ということで履歴書をメールで送りました。何度かやりとりがあって、その中で聞かれたのは、心理相談業務の実績についてでした。
そして、実績が乏しいことが理由で2社については不合格になりました。僕が受けたのは児童養護施設と児童発達支援施設です。どちらも即戦力になり得る実績がある人を求めていたため、僕は不採用となりました。
児童養護施設については、やはり臨床における実績が必要だと思います。スクールカウンセラーや小児心療などで子どもの不登校や非行、心の病について相談を受けた経験のことです。
児童発達支援施設については、発達障害に関する知識や発達検査ができるかどうかが重要です。勿論、それに伴うデータの理解と解釈、保護者への対応、他機関との連携、アセスメントといった経験も必要だと考えられます。
この意味で、Gルートで合格したからといって転職で心理職になれるかと言われると難しいかもしれません。とはいえ、僕が住んでいるのは地方なので、都会であれば、もう少し可能性はあるかもしれません。
最後に
いかがでしたでしょうか。『公認心理師は食えないのか』と聞かれると上述の回答になります。食えなくはないですが、割に合わない苦労があります。
1人で生活していくぶんには困らないかもしれませんが、結婚して子どもができて、家計を支えていくとなると、少なくとも正規雇用で働く必要があります。
大学院を修了した時点で24歳ですので、若いうちに結婚して家庭を持ちたいと考えている方は、何としてでも新卒で正規雇用を目指してください。
また僕も転職して正規雇用となったわけですが、年齢も関係あると分析しています。僕は、30歳までには正規の職につくと計画していました。
非正規の教員をしていて、その忙しさから先が見えなくなり、転職が難しくなる30歳までには、と考えたわけです。
公認心理師資格を取得したとしても、採用する側からすると、将来性や職場の年齢層も考慮されるはずですから、何歳でもいいわけではありません。なるべく若いうちに動くことをおすすめします。
以上、僕の経験からの意見でした。もし参考になったと思ったら、SNSで拡散してくださると幸いです。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
公認心理師試験対策
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