箱庭療法(歴史、特徴、注意点)【公認心理師試験対策】
箱庭療法の歴史
箱庭療法は、子どもに対する心理療法として1929年にローエンフェルト(Lowenfelt,M.)が創設した世界技法がもとになっています。ユング(Jung,C.G.)のもとで心理療法を学んだカルフ(Kalff,D.M.)がユング心理学の理論を軸にして箱庭療法の大枠を設定し、発展させていきました。
日本では1965年に河合隼雄が箱庭療法を紹介し、主に教育や医療の領域で使用されるようになりました。1987年に日本箱庭療法学会が設立されるなど、日本における箱庭療法の研究が進められ、強迫症を始めとして各症状への有効性が示されてきました。
箱庭療法の特徴
箱庭療法は、ユング心理学の理論が受け継がれており、無意識への接近と統制という側面を持っています。教育機関においては、相談室の中に箱庭が設置されていることも多いです。特に児童期の子どもは言語表現が未熟ということもあり、箱庭で物語を創る中で、攻撃性や不安などが現れやすいとされています。
箱庭療法は、長方形の箱(52✕72✕7cm)に砂を敷きつめ、この箱庭の中でミニチュアやフィギュアなどを使って物語を創っていきます。この砂は綺麗に洗浄された砂が使われており、肌触りも良くなっています。
砂に触れるという行為は、非日常的な行為であり、臨床的な療法ではないが、サンドセラピーと呼ばれるリフレッシュ方法もあるように、触れること自体にストレスを緩和する効果があるとも考えられています。臨床心理士試験では「表現行為そのものにカタルシス効果がある。」とも出題されています。
実施について
箱庭療法の適応年齢は、3歳頃からとされており、上限はありません。大人に箱庭療法を施す場合は退行が見られることもありますが、あえてその退行を扱い、治療を促進することもできます。
箱庭療法の着眼点としては、ストーリーや非言語の部分が特に注目されます。箱庭を創ってセラピストが解釈を深めるというよりは、まずはクライエントにストーリーや背景を語ってもらうことで、深層に隠された心理状態が現れることがあります。
しかしながら、統合失調症患者に対しては箱庭療法や遊戯療法が禁忌であるとする研究者もいるので注意したいところです。この理由については、統合失調症の症状として幻視や幻聴がみられることもあり、深層にある考えが表出されても、それが真実ではないことが考えられるからです。
また、解離障害がある患者に対しても、箱庭療法を実施するには注意が必要です。この理由は、解離に至った原因として多い思い出したくないトラウマがある場合、それを無理に思い起こすことになるからです。
こうしたトラウマ経験は、本人の心身の状態をよく考慮して扱う必要があります。無理に思い起こさせてしまうと、パニックを起こしたり過呼吸や動悸で苦しませてしまったりすることがあります。
箱庭療法は、不登校や非行に至っている子どもの心理療法として効果があり、家族療法と併用されることもあります。その際は、子どもと親が一緒に箱庭で物語を創ることもあります。
解釈について
箱庭療法の解釈については、中井久夫によって1970年に報告された風景構成法という芸術療法の解釈基準がヒントになっています。
この解釈基準は「空間象徴理論」のことで、左側が内的世界や無意識を、右側が外的世界と意識を表すとされています。
実施上の注意点
統合失調症に対して禁忌であるほか、いくつかの注意点があり、これが臨床心理士試験で出題されています。
まず、箱庭の枠には意味があり、カルフは「自由にして保護された空間」であるとしています。つまり、砂箱の中で自分を表現すること許されるということを視覚的に意識させていることになります。
この枠をはみ出てしまうと、セラピストに攻撃性を示したり、投影的な表現を表出してしまうことに繋がっていきます。
箱庭療法では、砂だけで物語を創ってもよいとされています。しかし、水を使うことには慎重な判断が必要です。水は透けていて、どのようにも混ざり合うという性質があることから、心理状態においても無意識に影響があると考えられています。
ミニチュアやフィギュアは、クライエントが求めた物を何でも準備してあげるのが親切というわけではなく、あらかじめ準備された物の中から新たな特徴や役割を想像することが重要です。例えば、子どものフィギュアを「勇者」と呼んだり、動物を家族のように扱ったりするなどです。
子どもに対する箱庭療法では、ミニチュアやフィギュアを持って帰りたいと言われることもありますが、その気持ちを共感的に受け止めて、「他の子も大切にしているから」などと理解を促すことが大切です。
これは、相談室の中での体験を外に持ち出そうとする行動化であると解釈することができるため、相談室という枠の中で発散できるように、このような対応が求められています。また、同時にセラピストとの約束を作り、それを守るという中で子どもの心理発達が促される場合もあります。
子どもがセラピストに対して攻撃性を示してきた場合やミニチュアとフィギュアを壊すような行動をした場合は、最初は強く注意することはせず、その気持ちを共感的に受容しようとした上で、それでも過度の攻撃性が示された場合は、箱庭療法を中止することも検討します。