親の過保護・過干渉が子どもに与える影響

2021年6月30日

今回、紹介したいのは『過保護』と『過干渉』です。一般的に『よくない』とされているようですが、過保護・過干渉とは何なのか、具体的にどんな影響があるのか、英才教育について、をお話したいと思います。

一応、参考資料を示しますが、あくまで僕個人の考察であることに留意して、読んでみてください。

過保護とは

過保護とは「ある対象を過剰に保護すること」です。

子どもの意思を尊重しすぎて、過度に欲求を満たそうとしたり、子どもの責任を過度に肩代わりしたりすることを指します。

大学生の子を持つ保護者を対象とした研究で、質問紙を作成した大芦ら(1996)を参考にすると、過保護の方は以下の項目に当てはまることがわかります。(言い換えを含む。)

  • お使いや家事をさせない。
  • 子どもが嫌がると許す。
  • 子ども本位で物事を考える。
  • つい甘やかしてしまう。
  • 悪いことをしても叱れない。

子どもの保護者として、子どもを守るという意味では、適応的な行動と言えるものもありますが、これも過度になってしまうと、偏った養育行動となってしまうわけです。

過干渉とは

過干渉とは「ある対象の思考や意思、自主性などを否定し、統制しようとすること」です。

大芦ら(1996)の質問紙を参考にすると、以下の項目が当てはまると考えられます。(抜粋かつ言い換えを含む)

  • 子どもの成績や作品をけなす。
  • 子どもの生活上の禁止事項を設ける。
  • 勉強の仕方に干渉する。
  • 思い通りにならないと叱る。
  • 学業成績を他の子どもと比べる。
  • 進学や進路について指図する。
  • 交友関係に干渉する。
  • 勉強時間を細かく管理する。
  • 服装や身だしなみに細かく干渉する。
  • お金の使い方に細かく干渉する。
  • 門限(遊ぶ時間)を管理する。

これらの項目を見ると、子どもの息苦しさが想像できます。また、これら以外にも「子どものテストや成績に関して不満を感じている」など、学業成績に関することが多かったです。

過保護と過干渉の原因

過保護と過干渉の原因については、複雑な問題ゆえなのか、関連する論文が少なく、明確な原因はわかりませんでした。

しかしながら、親の養育態度は子どもの社会的適応に影響を与えるとした研究は見られました。例えば、石津・安保(2009)では、「母親の温かさ」は抑うつ傾向を減少させ、友人関係や勉強といった学校への適応を促進するとされています。

これまでSNSで「過保護」や「過干渉」と検索した際に見られた投稿を概観すると、以下の特徴があるのではないかと推測できました。

過保護の原因

過保護には、親の子どもに対する不安が根底にあり、「子どもを一人で社会に出すのが不安」や「心配しすぎて言わなくていいことをつい言ってしまう」などの保護者の声を拾うことができました。

一方で、元高校教員の自分の意見としては、保護者が過保護を自覚しておらず、子どもの保護者の前以外での生活を知らないまま、行き過ぎた行動に出ることもあると思っています。

実際、高校生の生徒指導でも、状況を知らない保護者が子どもの言うことが全て正しいと言わんばかりに、学校批判を始めてしまい、真意を説明しようとしても耳に届かないケースが年に数回はありました。

特性的に不安を抱きやすい保護者の方がいるのは、自然なことですので、これを責めていけないと思います。ただ、子どもが窮屈に感じていたり、子どもが成長できる機会を奪っていたりすることもあるので、過度にならない程度で折り合いをつけていくとよいと思います。

過干渉の原因

過干渉には、保護者の劣等感や完璧主義、子どもを大切に思う優しさの欠如が関係しているだろうと推察します。(あくまで個人的な感想です。)

先程の項目の中に「他の子どもと比べる」というものがありましたが、これは「自分の子が他の子より劣るということを許せない」とも解釈することができます。

また、時間や方法など、細かく管理しようとする心象があり、これは自身の完璧主義を子どもに押しつけているようにも感じとれます。

項目を見ると、子どもに対する優しさや思いやりがなく、保護者自身が主体として、子どもを意のままにコントロールしようとしているように感じとれます。

学歴志向が過保護と過干渉に与える影響

日本は、世界的に見ても進学競争が激しい国と言われてきました。高校進学率は50%を超え、良い暮らしをするには学歴が必要であると考える人も多いように感じます。

また、近年では不況が続き、結婚や子育てのハードルが高くなっています。このため、保護者の養育が社会背景の影響を受け、学歴志向になっている場合もあると思います。

大芦ら(1996)では、父親と母親の学歴志向が養育としての過保護と過干渉に与える影響を検討しています。

男子大学生では、父親と母親の学歴志向が父親と母親の養育態度(過保護と過干渉)に影響していることが示されました。

女子大学生では、父親の学歴志向が父親と母親の養育態度(過保護と過干渉)に影響を与え、母親の学歴志向が父親の養育態度(過保護過干渉)に影響を与えることを示しました。

過保護・過干渉が子どもに与える影響

養育については、幼少期や児童期の子どもは違和感を抱きにくいと思います。子どもにとっては、ただ1つの養育であり、他の家庭の養育を知らないからです。

ところが、次第に他の家庭との違いに気づき、何で自分は親離れできないのか、何で自分は苦しいのかなどを考えるようになります。そして、この頃から精神的なダメージが増大し、自己破壊行動や非行といった問題行動に至ってしまうわけです。

過干渉については、中学生における親の厳しすぎる躾(しつけ)や親の統制態度は反社会的行動に影響する(吉澤ら,2017)といった研究があります。

過保護については、精神的自立に関して、過度の甘やかし行動が子どもの積極性や自立性に負の影響を与える(戸田,2006)とされています。

子どもは、自己の認知として、自覚できる場合と自覚できない場合があります。自覚する場合は、他者とのギャップや残された心理的発達の課題と向き合うのに対し、自覚しない場合は、そのまま社会的不適応に至るかもしれません。

英才教育はダメなのか

これに関して研究報告はありません。論ずるとすれば、この学歴社会で勉強ができるというのは悪いことではないということです。これを前提にするのであれば、上述の過保護・過干渉にならないように留意しながら、無理せず学べる環境を維持してあげることが大切だと思います。

日本は、横並びが重視される傾向があるので、学年や学歴、浪人や大学院進学、資格を取得するための自己研鑽などを気にしすぎなければ、30歳までには、目標が達成できるのかなと個人的には思っています。

どうしても急かされてしまうと心が荒んでいきます。ゆっくり子どものペースで子どもの掲げる目標を応援してあげるとよいと思います

昨今、Youtuberやブロガーという生き方もありますが、タレントとしてだけでなく、裏方の仕事を考えるのであれば、英才教育までいかなくとも、それなりの知性はあったに越したことはないのかなと思います。

最後に

過干渉は心理的虐待として扱われることがあります。虐待の話でいうと、虐待は世代間連鎖があるとも言われており、こうした偏った養育態度には、実は保護者も同じように育てられてきたという背景があったりもします。

ましてや、この社会背景もあるので、過保護や過干渉といった養育態度が正しいもののように解釈されることもあろうかと思います。

家庭のことですから、元教員としても心理学を学ぶものとしても、養育を否定するつもりはありませんが、子どもの人権を無視するような虐待については、否定し、適切な支援を施さなければと思う次第です。

世代間連鎖では、保護者も社会や過去の養育の被害者なのかもしれませんが、これを自覚し、何とか改めたいという気持ちが少なからず持ち合わせているのであれば、「子どもの本当の幸せ」を考えてあげてください。

参考引用文献

  • 石津憲一郎・安保英勇(2009)中学生の過剰適応と学校適応の包括的なプロセスに関する研究:個人内要因としての気質と環境要因としての養育態度の影響の観点から 教育心理学研究, 57, 442−453.
  • 大芦治・岡崎奈美子・山崎久美子(1996)タイプA行動パターンの発達に及ぼす両親の学歴志向および養育態度の影響 発達心理学研究, 7 (1), 41−51.
  • 吉澤寛之・吉田琢哉・原田知佳・浅野良輔・玉井颯一・吉田俊和(2017)養育・しつけが反社会的行動に及ぼす弁別的影響:適応性を考慮した社会的情報処理による媒介過程 教育心理学研究, 65 (2), 281−294.
  • 戸田須恵子(2006)母親の養育態度と幼児の自己統制機能及び社会的行動との関連について 北海道教育大学釧路分校研究報告, 38, 59−69.