社会的交換理論(Social exchange theory)第3回:問87【公認心理師試験対策】

2021年3月20日

社会的交換理論を簡潔に

社会的交換理論は、人は誰かにモノをあげたり貸したり、もしくは無形のサービスや労働力を与えたりする際に、報酬というものを得て、人間関係や社会・経済が成立しているという理論です。

例えば、学生であれば講義を休んだ人にノートを貸した場合は、後で昼食をおごったりするわけです。また、お店では商品やサービスをお金と交換します。お金という概念がなかった時代では物々交換だったり、労働力とモノを交換していたわけです。

社会心理学の領域でいえば、「返報性」という言葉があります。返報性というのは、人は親切を施されたときに、それと同等の親切を返さなくてはならないという気持ちになるということです。

例えば、ビジネスマンが営業で無料の商品を渡してから交渉を始めたりするのは、返報性を利用して、交渉の成功率を高めるためでもあります。また、商品の評価が高ければ、口コミとして拡散されるかもしれないという一石二鳥の方策と言えます。

さて、ここまで簡単に社会的交換理論を説明しましたが、その展開や発展についても詳しく触れておこうと思います。

社会的交換理論の展開

社会的交換理論(Social exchange theory)は、『交換』という観点から社会・経済の在り方を考察した理論です。もともとは、マリノフスキーが『交換論』、モースが『贈与論』を展開していました。ホマンズ(Homans,G,C.)は、交換論や贈与論を批判する形で自身の社会的交換理論を提唱しています。この後も多くの研究家が理論を展開していきます。

社会的交換理論は、イギリス社会学における個人主義的伝統と、フランス社会学における全体主義的伝統が、その大枠となっています。個人主義的伝統による交換理論は観察可能な経験的事実を捉えているのに対して、全体主義的伝統による交換理論は、経済としての社会の全体性を重視しています。

社会的交換論の発展

ピーター・ペケ(1974)によるとホマンズは、レヴィ=ストロースの全体主義的交換理論を批判する形で、自身の社会的交換理論を提唱したとしています。その後はスキナー(Skinner,B.F.)の行動理論をもとにエマーソン(Emmerson,R.M.)が心理学的に捉え直したりもしています。

ブロニスワフ・マリノフスキーは、民族が貝製の腕輪と首輪を交換する「クラ」交易の贈与システムにヒントを得て、交換論を提唱しました。交換論では、抽象的な理論で今後の理論展開の軸として、「交換により社会の仕組みが成立している」としました。

これとは別に、モースは個人や集団におけるモノと食料のやり取りを説明しました。モースの贈与論では、贈与と反対贈与という「互酬性」が軸となっています。

レヴィ=ストロースは、これまで「贈与」と論じられていた部分を「交換」と定義し直し、全体主義的交換理論を提唱しています。その後、社会的交換理論として、交換理論は発展していきます。

社会的交換理論の分裂

社会的交換理論は、これまで社会の基盤としての贈与や交換という扱いで展開されてきましたが、各領域によって細分化される流れを受けます。その領域というのが、①社会心理学における交換理論、②社会学としての交換理論、③人類学における交換理論、です。

社会心理学としての交換理論は、ホーマンズが行動論を軸として展開しています。ホーマンズは、交換の始まりには、価値・成功への期待が含まれており、個人や相互の利益を目的とした交換が行われているとしました。

社会学としての交換理論は、ピーター・ブラウが交換について細かい考察を加えています。ブラウは、交換とは返される報酬を期待して行われる供与行為であるとし、交換にはバランスを保つ互酬性があるとしています。ブラウは、交換は同等の価値があるもの同士で交換され、返すべき価値が劣っている場合は、服従という形でバランスが保たれるとしました。

人類学としての交換理論は、モースにより考えられたものです。モースは贈与こそが互酬システムの始まりであるとし、返報性(贈与した際、その後に同等の価値がある反対贈与が行われること)にも触れています。

また、無形の贈与(今でいうサービス)にも価値があることにも言及しています。ブロニスワフ・マソノフスキーは贈与物には「ハウ」と呼ばれる霊が宿っており、必ずもとの場所に帰ろうとする習性があると説明しています。