社会的アイデンティティ理論(第3回:問87)【公認心理師試験対策】
社会的アイデンティティ理論
社会的アイデンティティ理論は、「ある社会的集団への成員性の知識から派生した個人の自己概念の一部(Tajifel,1978)」であり、所属する社会的集団を良く評価し、所属していない社会的集団を悪く評価する傾向があるとされています。
社会心理学の領域において発展した理論で、Tsjifel & Turner(1979)が集団における行動原理を集団の成員の心理的側面に関連付けて検討しています。
社会的アイデンティティ理論では、社会を集団の単位として位置づけています。例えば、組織としての会社や学校、家族などの集団、自分が信仰している宗教や学問的領域における立場なども社会的な集団の1つとして考えられます。
社会的アイデンティティを確立する上で、少なからず競争意識が影響していると言われています。例えば、自分が所属している集団は、他の集団よりも優れていると思いたいという認知的なバイアスがあります。
この自分が所属している集団のことを『内集団』、所属していない集団のことを『外集団』と言います。
基本的に、社会的アイデンティティは自己概念の一部ということもあり、否定されることを拒み、肯定されることを望みます。
例えば、カルト宗教があったとして、外部の人間が危険だと忠告しても、信仰している者はその声に耳を傾けずに宗教の素晴らしさをアピールするかもしれません。
これは、社会的アイデンティティが否定されるということは、ほぼイコールとして自己が否定されることになるからです。
心理的な援助を考える上で、内集団を信仰しすぎていたり、外集団を敵視する人もいます。こうした考えは、おおよそクライエントの自己概念と何らかの関連があります。
例えば、ある集団では地位があり、自分が認められている感覚に陥ることができる。これが過度となり、外集団を攻撃するようになっては、不適応行動とみなされます。
これに対しては、根底にある承認欲求を緩和させたり、他の方法で認められる体験をさせるなどの支援ができます。
社会的アイデンティティは、基本的人権にも関与する部分です。あくまでこうした考えを否定するのではなく、傾聴して、非合理な信念によりとらわれている場合は、その非合理的な信念を取り上げて、低減させてあげることが自己理解・自己受容に繋がっていきます。
ちなみに、日本は仏教徒が多いですが、その慣習を重んじていながらも、自己概念とまで考えている人は少ないように感じます。例えば、冠婚葬祭は仏教の習わしを重んじますが、仏教徒であるという自覚を持たない人が多く、結婚式は洋式にしたり、クリスマスを楽しむ人もいます。
とはいえ、日本には外国籍の方も多く住んでいます。災害などがあって避難所にいても、決まった時間に祈りを捧げようとする方もいるわけですから、そうした信仰心の強みを受け入れながら、心理的支援に当たることが好ましいと思います。
相互依存的価値観
相互依存的価値観とは、アジア圏で優勢な価値観で、社会全体で同じ足並みを揃えることを良いとする価値観のことです。
日本の教育では運動会のかけっこで手を繋いでゴールしようなど、周囲との競争を避けようとする動きがあります。
しかしながら、高校受験や大学受験、就職試験などは競争であるため、このギャップを埋められず、困惑する若者がいます。
相互独立的価値観
相互独立的価値観とは、アメリカやヨーロッパ圏で優勢な価値観で、個人としての独立性や卓越した生き方が良いとする価値観のことです。
アメリカでは個性やパーソナリティという言葉が大切にされていて、凄い能力を持つ人には飛び級などが認められていたり、高IQの人のみが所属できる組織などが認められています。
こうした価値観は、文化的な流れを汲んでいますが、結局のところ、人それぞれの価値観となっており、どちらも受容できる社会が求められます。
参考引用文献
- Tajfel, H. & Turner, J. C. (1979) An integrative theory of intergroup conflict. In Austin W. G. & Worchel S.(Eds.)The Social Psychology of Intergroup Relations. Brooks-Cole, Monterey, CA, pp.33-47.
- Tajfel, H. (1978) Social categorization, social identity and social comparison. In H. Tajfel (Ed.), Differentiation between Social Groups: Studies in the Social Psychology of Intergroup Relations(pp.61-76). London: Academic Press