傾聴の基本とコツ【信頼関係を築く話の聴き方】

2021年1月23日

傾聴とは

傾聴とは、その言葉のとおり「話し手の言葉に耳(心)を傾けて積極的に聴くこと」です。

傾聴は、カウンセラーとクライエントの関係だけに限らず、親、教師、看護師、介護士、保育士など、話を聴く立場にある方にとっては、優良なスキルですので、ぜひ知っていただきたいです。

傾聴の成り立ちからコツまで、わかりやすく説明してまいります。

来談者中心療法

来談者中心療法とは、アメリカの心理学者であるロジャーズ(Rogers,C.R.)が提唱した心理療法で、来談者を中心に捉える非指示的カウンセリングとして確立しました。

ロジャーズは、青年時代は農学や神学を学んでいました。その後、臨床心理学の道へと進みますが、少年非行のカウンセリングに行き詰まり、当時の心理療法の限界を感じました。そして、人の自己成長に重きを置くようになりました。

この経験から非指示的で傾聴を重んじる来談者中心療法が生まれます。ただし、ロジャーズは経験主義ではありません。理論性を大切にし、研究にも力を入れています。

傾聴は、全ての学派に通ずる心理療法の基礎とも言えますが、その大網を引いたのが、ロジャーズの来談者中心療法でした。

6つの必要十分条件

ロジャーズは、カウンセラーと来談者の関係について、来談者のパーソナリティの変容に必要で十分な6つの条件を挙げています。

①カウンセラーと来談者の間にあるラポール(信頼関係)があること。

②来談者は、不一致、傷つきやすさ、不安を抱いている状態であること。

③カウンセラーは、自己が一致していて、統合されている状態であること。

④カウンセラーは来談者に対して、肯定的配慮を経験していること。

⑤カウンセラーは来談者の内的照合枠(感じ方、捉え方のようなもの)を共感的に理解しており、その経験をクライエントに伝えようと努めていること。

⑥カウンセラーの理解と無条件の肯定的配慮が、クライエントに伝わっていること。

以上のうち、カウンセラーの態度条件は、無条件の肯定的関心共感的理解自己一致(純粋性)となっています。

つまり、不適応に陥っている来談者に対しては、この3つの態度を示しながら、信頼関係を築き、反射(リフレクション)をしながら、来談者の自己理解自己受容を支え、自己の成長を促すことが治療的な関わりであるということです。

傾聴のコツ

さて、ここまでは、傾聴の理論的背景を知っていただきました。これらの背景を踏まえた上で、傾聴を理解していただけたらと思います。

無条件の肯定的関心

無条件とは、どういうことでしょうか。

例えば、小学1年生の男の子が「クラスの子に意地悪をされた」とムッとしながら話してきたとします。

その際に、「君がちょっかい出したんじゃないの?」と言うと、「何もしてない!」と怒りを煽り、話もそれてしまいます。

これは、「貴方は何もしていないのね」という確認をとっているわけですが、「何もしていないなら、味方になって話を聴いてあげる」という条件つきの関心になっているのです。

肯定的関心とは、言葉で表現するとやりすぎですが、「それでそれで?」と積極的に聴くように、態度で示してあげると、この人はちゃんと話を聴いてくれる相手だ、と認識されます。他に何かをしながら話を聴いていたりすると、ちゃんと聞いてくれないのかと、途中で話をやめてしまうかもしれません。

共感的理解

共感的理解というと、まずは気持ちを共感してあげることが大切です。「そっか、それは嫌な気持ちになったよね」と心配する気持ちを表してあげると、「そうなの!○○君がね…」と自分の思いを話せる体勢が整います。

「誰が意地悪したの?」「どうしたの?」と説明を求めることも、事実確認の為には大切ですが、最初から説明を求めてしまうと、切迫感が抜けないまま、落ち着ちのない聞き取りになってしまいます。まずは、気持ちを優先して聴いてあげると、話し手は安心して話すことができます。

先ほど記述した反射(リフレクション)は、語り返しと言い表すことができます。「○○君がね、消しゴムを投げてね、えっとね、……」に対して「大切な自分の消しゴムを投げられたから、怒っているんだね」というと、男の子の怒りという感情を言語化すると同時に、子どもの言語スキルは未熟ですから、説明し返して、考えを整理してあげることもできます。もし、反射した内容に間違いがあれば、話し手が言い直してくれます。それもまた、整理の時間になるのです。

これは、大人が話し手の場合でも有効です。言語スキルが十分だったとしても、混乱している場合もありますからね。

また、感情を言語化することは、日常生活では、ほとんどありませんよね。まずは、抱いている感情に気づいてもらい、落ち着いたあとで、具体的な内容を説明してもらえばいいのです。

自己一致(純粋性)

聞き手が嘘を言ってしまうと、話し手との信頼関係が崩れていきます。また、喉元まで出かかっている想いを言わないというのも、状況によっては必要ですが、自分に嘘をついて、聴くことが辛くなるようであれば、言語化することも時には必要になります。

「もうこんな消しゴムいらない!」と男の子が怒っています。しかし、これは男の子にとって良くないし、本心じゃないかもしれない、と思った先生は「そんなに嫌だったんだね。でもね、先生は消しゴムを大切にしてほしいな」と言い、消しゴムを拾って手渡しました。

この関わりでは、受容しようとしながらも、一点では言動を否定しています。しかし、その伝え方は考慮され、否定する気持ちを男の子への期待として表現しています。男の子にとっては、先生の言葉の意味を少し考えてから飲み込むことになります。ここで、さっきの言動は良くなかったのかもしれない、と気づき、成長するのです。

傾聴は非日常的である

先ほどの態度や反射の話にあったように、傾聴というのは、非日常的な体験です。冷静な人からすると、不思議で違和感のある聴き方となるのです。

中には、「前のめりに、話して!と促されているようで、信用できない」と仰る方もいるくらいです。傾聴は、日常生活でも使えると仰る方もいらっしゃいますが、僕としては、ここぞ!という時と日常の聴き方は、使い分けるといいと思っています。

例にあったような子どもの怒りや悲しみといった情動が見られる場面では、傾聴は効果を発揮しますが、友達同士で楽しくお喋りする場面では、何か話しづらいなという印象を与えかねません。スイッチのオンとオフを意識されると傾聴するべきタイミングがわかってきます。

反射はオウム返しではない

反射は、そう簡単に身につけられるものではありません。カウンセラーの力量は、臨床心理学の知識量やカウンセリングスキルもさながら、醸し出す雰囲気や想像力も実力として見なされます。他者が信頼しやすい身体的特徴なども研究されているくらいです。

とはいえ、傾聴のスキルは、誰でも習得可能だと思っています。傾聴が上手くいかない最も大きな理由は、反射をオウム返しと勘違いされていることだと思います。

「彼氏に振られて、もう生きていけない…」と涙ながらに話す女性がいたとします。「彼氏に振られちゃったんだね。もう生きていけないよね」これでは、話を繰り返しただけのオウム返しですよね。

「好きだったぶん、辛いですよね」と態度や話し方も踏まえて、語り返すと、女性の気持ちを汲み取った反射と言えますよね。女性は静かに涙を流しています。ここで、無言の時間ができますが、焦って話かけなくても大丈夫です。無言の解釈も大切なのです。温かい飲み物を静かに出してあげたり、ハンカチを渡したり、無言でも気持ちを共感してあげればいいのです。

転移への対応

来談者の中には、「貴方には私の気持ちがわからない」「見透かすようなことはやめてください」と、論理的な話し方でカウンセラーに対して攻撃性を示す方がいます。これは精神分析でいうところの転移です。

自分の中にある感情や情動を相手が持っているものとして、捉えることによって、自分の心を守っているのです。

とはいえ、これには大切なメッセージが含まれていることが多いです。「貴方には私の気持ちがわからない」というのは、「自分が理解し得ないこの気持ちを、貴方がわかるはずないじゃない」というような解釈ができます。ただし、言葉だけでは解釈できません。態度や話し方、雰囲気などから解釈するよう努めます。

これが正しいという確証はありませんが、「私は、貴方の理解者であろうと思っています」と味方であることを伝えます。この場合、傾聴により信頼を得ることが大切です。忘れてはならないのは、来談者は転移するほど、心に負担を抱えているということです。親身に傾聴することで、次第にこちらを見てくれるようになります。

逆転移に注意

逆転移とは、転移とは向きが逆で、カウンセラーが来談者に対して転移を示すことです。

例えば、カウンセラーは辛い学生生活を過ごし、うつ病を経験しています。来談者の学生は、同様の要因があり、うつ状態になっています。何より、あらゆることを億劫に感じています。しかし、カウンセラーはうつ病を治すなら、こうするといい!貴方はこんな状態でしょう?と来談者の気持ちに気づかず、積極的に関わり続けてしまい、その後、来談者が再びカウンセリングに訪れることはありませんでした。

このように、カウンセラーの想いが良からぬ影響を及ぼすこともあります。熟練したカウンセラーは、逆転移を自分で理解し、その状態を受け入れながら、カウンセリングを進めることができます。また、スーパーヴァイズといって、スーパーヴァイザー(自分より熟練したカウンセラーなど)にケースを話し、逆転移の理解に繋がる助言を得るなどして、一人で抱え込まないように努めます。

また、自分の手に負えないと感じたら、適切に来談者を他の専門機関やカウンセラーに繋げます。これをリファーといいます。

熟練したカウンセラーは、このような自己防衛スキルを持っています。

より一般的な例を挙げると、学生時代に不登校経験のある教師が、不登校になった生徒の指導に対して逆転移を起こすことがあります。

ただし、これを否定するつもりはありません。逆転移を適切に扱うことができれば、不登校の経験は、この生徒に良い影響を与えることになるでしょう。

若干のユーモア

プロカウンセラーの方は、聴くことは勿論ですが、話も面白いことが多いです。

来談者の性格や状況も考えた上で、時にユーモアを交えることで、緊張感を緩和し、楽しいお喋りのように、愚痴や悩みを聴くことも、カウンセリングの1つなのです。来談者の中には、聴くことよりも話してほしいという方もいらっしゃいます。互いに笑顔でいることも大切な関わりだと言えます。

リラックスできる空間

カウンセリングには、場所が重要です。清潔でシンプルで落ち着けるような場所で、状態が整うことで、来談者は思い切り話すことができるようになります。

また、他の人にカウンセリングに訪れていることを知られたくない人も多いのです。学校でもスクールカウンセラーに相談する時は、相談室が設けられていると思います。

リラックスといっても、真剣に聴くわけですから、リラックスし過ぎても良くありません。その程度を考慮した場所づくりが大切です。

また、初回のカウンセリングでは、時間が長く設定されていることが多いです。これは、状態を把握すること、状態によっては他機関への紹介を行うこと、信頼関係を築くこと、場に慣れてもらうことなどがあるからです。

学校での急な生徒の相談でも、場所を変えようか?という一声だけでも、生徒を大切に想っていることを感じてもらえることでしょう。

最後に

いかがでしたか?カウンセリングの話が多かったですが、より一般的な相談場面でも、利用できることがあったことと思います。

また自分でもこうするといいなと感じたことがあれば、発信していきたいと思います。

臨床心理学

Posted by Cozy