Sutherland,E.H.の分化的接触理論(Differential Association Theory)【公認心理師試験対策】第3回:問141

2021年2月26日

分化的接触理論

分化的接触理論(differential association theory)は、サザーランド(Sutherland,E.H.)が提唱した理論です。分化的接触理論は、9つの命題が考慮されており、犯罪者心理の大枠をまとめた理論となっています。

分化的接触理論は、犯罪心理学の領域で発展してきました。1947年に理論の中心となる9つの命題が示され、サザーランドの死後もクレッシー(Cressey,D.R.)やラッケンビル(Luckenbill,D.F.)が研究を進めました。

こうして分化的接触理論は、時代の流れに伴って、少しずつ変化していきました。そして、ラッケンビルは、1992年に現行の11改訂版を示し、9つの命題はその後も変わりなく使用されています。

9つの命題

ラッケンビルが考慮する命題をあげてみます。

①『犯罪行動は学習される。』

これまで犯罪心理学では、生態学的な遺伝論が展開されてきましたが、それを一部否定する命題です。犯罪行動は他の行動と同じく、きっかけはどうあれ、成功や失敗を経験して学習されます。

②『犯罪行動はコミュニケーションの相互作用において学習される。』

犯罪の手口や動機など、犯罪行動に関わることの多くが他者とのコミュニケーションを介して学習されます。また、言語だけでなく非言語においても学習されます。

③『犯罪行動の学習は主に私的集団の中で行われる。』

犯罪の主要な計画や犯行は交友関係があるなどの私的集団の中で行われることが多く、日本でも海外でも捜査の基本として交友関係が調べられます。

④『犯罪行動の学習は単純と複雑に偏りやすい。』

犯罪に及ぶ者は衝動的犯行やその場しのぎであることが多いとする一方で、綿密な計画を練り、逮捕されないように複雑化されることも多いです。日本では、後者は計画犯と呼ばれていますよね。

⑤『犯行の動機は法規範に好意的なこともあれば、非好意的なこともある。』

犯罪者は誰もが法規範がないということではなく、自分の中にある非合理な正義を振りかざすこともあるということです。

⑥『人は法違反の動機づけにおいて犯罪を犯す。』

この第6の命題は、分化的接触理論の中核です。人は母国語を体験的に学習するわけですが、一度も触れたことがない言語においては発音することすらできません。このように犯罪についても何かしら触れることがなければ犯罪を起こすことはないと考えられています。最も法整備の進んでいない国や民族においては、犯罪という概念すら持ち合わせていないとも言えます。

⑦『分化的接触は頻度、期間、優先性、強度など様々である。』

命題⑥の分化的接触において、頻度、期間、優先性、強度など、触れ方は様々で、ごく僅かしか触れていなくても、その後に学習することができるため、きっかけとしては十分と言うわけです。

⑧『犯罪行動パターンとの接触による犯罪行動の学習は、他の学習と同様のメカニズムを辿る。』

他の学習というと、知識的に理解して行動に移したり、関連する背景知識から予測したりすることもできます。犯罪行動パターンは、他者の真似をしたり教授されることもありますが、そればかりに留まらないということです。

⑨『犯罪行動は一般的な欲求と価値の表現であるが、これだけでは説明できない。』

犯罪行動には、不満や利益追求などの動機があります。これ自体は確かなのですが、一般的な行動においても同様に欲求と価値の表現があるわけです。つまり、犯罪行動は、この表現の仕方が違反的であったり、度が過ぎていたりするなど、これ以外の要因が複雑に絡まり合って起こるとした命題と言えます。