公認心理師の秘密保持義務(守秘義務)を詳しく解説【公認心理師試験対策】

公認心理師に、公認心理師法の定めるところによって法的義務があります。法的義務には、①信用失墜行為の禁止(第40条)、②秘密保持義務(第41条)、③連携等(第42条)、④資質向上の責務があります。

今回は、その中でも『秘密保持義務』に焦点を当てて解説していきます。秘密保持義務は、他業種でいうところの守秘義務にあたります。

秘密保持義務

秘密保持義務は、公認心理師法の第40条において規定されています。規定内容は以下のとおりです。

公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知りえた人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。

公認心理師法 第40条

秘密保持義務を違反した場合は、『1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処する』という罰則があり、告訴されて裁判になった際に罰則が施行されます。罰則は以下のとおりです。

第41条の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

第2項 前項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

公認心理師法 第46条

業務に関して知り得た人の秘密

『業務に関して知り得た人』というのは、相談者やその保護者、関係者のことを指しています。また『秘密』というのは、名前や年齢、住所や連絡先といった個人情報に加えて、相談や悩みの内容、家族構成、相談の様子なども含んでいます。

相談場面において知り得た情報は他言しないほうがいいです。ましてやSNSで発信することはあってはなりません。

また、相談内容をPCや紙面で記録したものを紛失・漏洩して告訴された場合、罰則を受ける可能性があります。告訴されなくても、信用失墜行為の禁止という点において、罰則を受ける可能性があります。

正当な理由

『正当な理由』として認められるのは、①警察の捜査において情報開示請求がなされた場合、②裁判で扱う資料として正当な手続きを踏んで情報開示請求がなされた場合、です。

注意しなければならないのは、開示請求に法的な義務が発生しているという点です。例えば、弁護士が口頭で「〇〇さんの情報をください」と言ってきた場合に、その場で情報を開示してはいけません。

あくまで公的な文書によって氏名と捺印を踏まえて、情報の利用目的が明確に示されている場合に限ります。もし、口頭で情報開示を請求された場合は『正当な手続きの情報開示請求を行ってください。』とお願いしてください。

例外と注意点

例外として『研究協力』と『講義・発表資料』があります。しかし、これには当人の許可が必要です。

例えば、公認心理師Aは、相談者Bの不安障害のカウンセリングを事例として、有効なアプローチを論文にまとめようと思いました。

その際に、公認心理師Aは相談者Bに対して、情報の利用目的や情報の利用範囲、論文に関係ない情報を入れない(実年齢→10代)などの説明をしなければなりません。

公的な手続きとして、説明文書と承諾書(署名欄つき)を準備して、十分な説明をした上で署名をもらってください。また、論文が完成したときには相談者Bに読んでもらい、説明文書に示した利用範囲に問題がないか確認してもらうとよいです。

もし、あとから『これは書いてほしくなかった』と言われることがないように配慮してください。研究や講義・発表資料として使う場合でも、相談者の不利益になってはいけません。

これも一歩間違えば、信用失墜行為の禁止に該当してしまいます。手続きは漏れなく行い、相談者ファーストであることを確認してください。

記録情報の保管について

公認心理師といっても就業形態は様々です。一般企業や公的機関に所属している場合は、その企業や機関において情報を管理する責務がありますので、原則として個人で保管することはないと思います。

一方で、個人事務所を運営したり会社を経営する上の管理責任者である場合は、必ず保管方法については、外部に合理的な説明ができるようにしておく必要があります。

例えば、紙面は鍵付きの書庫に保管し、職員が離れる際には部屋の鍵を閉めるとすると、2重の鍵をかけることになります。PCのデータにおいてはUSBを鍵付きの書庫に保管し、部屋の鍵を付け、USBにパスワード設定しておくと、実質は3重の鍵をかけることになります。

ここまでしても、悪質なハッキング被害にあったり扉が破壊されて盗まれることもあるかもしれません。とはいえ、保管の責務は果たしていれば、利用者に対して合理的な説明をすることができます。

事例として扱う場合

研究や事例報告などの機会でクライエントの相談を事例として扱う場合は、許可を得た上で、その記述方法にも考慮が必要です。以下に例(完全フィクション)を示します。

相談者A(中学2年生・女子)は、教室に入りづらいと保健室登校をしている。養護教諭は担任と校長と協議した上でSCの公認心理師への相談を持ちかけた。初回面接では、Aは緊張しながらも公認心理師に思いを打ち明けた。A『LINEで無視されてる……』SC「苦しいね。クラスの友達かな?」A『そう。もう学校に来たくない』Aは1年生のときから仲良くしていた同クラスの友人生徒(女子)BとCの間で、ソリが合わなくなり……………

本的には、クライエントは『A』と記載します。一般雑誌のように本名の頭文字をとって記載してはいけません。カウンセリング上、重要な意味を持つ存在(親、友人、恋人など)は『B』や『C』などと記載します。

また、本質的な内容に関係がないのであれば、具体的な年齢や都道府県、家族構成などの情報を記載してはいけません。ただし、生育歴を知る上で年齢や家族構成は重要な意味を持つ場合もあります。

ただし、他の登場人物は『養護教諭』や『姉・兄・母親・父親』などと記載して、登場人物における情報の取り扱いについても注意してください。

重要な会話の内容は、記載してもいいのですが、本人の許可が得られる範囲で細かくなりすぎないように配慮してください。

裁判に巻き込まれるかも

公認心理師は、利用者の情報や秘密を管理するため、利用者が事件や事故を起こした際、場合によっては裁判や捜査に利用するために情報開示請求がされることがあります。

前述の通り、公的な手続きがある場合は協力してもいいのですが、常に最悪の場合を想定しておく必要があります。

例えば、情報を開示したことによって、公認心理師が訴えられることもあります。公的な手続きがあった場合、裁判で負けることはないと思いますが、それなりの時間と費用を費やすことになるかもしれません。

また、裁判では精神鑑定が行われる場合もあります。精神鑑定は経験豊富な精神科医などが行うため、公認心理師としては直接的に関係はないのですが、重大事件の場合は利用者の担当カウンセラーとして情報を求められることがあるかもしれません。