努力を継続するためには
勉強、スポーツ、社会人としてのスキルアップなど、努力が続かない人がいる。高い目標を掲げていても、そこに行き着くまでに挫折してしまっては、満足する結果が得られない。
そこで、今回は『努力を継続する』ためのコツを考えてみようと思う。
特に勉強せずに東大に入学できたというエピソードを聞くことがある。しかしながら、これを鵜呑みにして、この人は特殊な才能があるから真似できないと思った時点で、努力へのモチベーションは下がっている。
大切なのは、人は人は、自分は自分、と努力の仕方を自分用に工夫して作ることである。当然のことながら、知的能力は遺伝的に影響を受けているとか、学習障害、知的能力障害といった例外はある。
それでもなお、個人に合った方法で、個人に合った目標で、個人に合ったペースで前に進み続けることが大切なのである。
バレーボールと目標
ある男子高校生がいたとする。彼は『プロの選手になりたい』と努力し続ける決心をした。しかしながら、挫折し、プロになることができなかった。
こうしたエピソードは、実はあまり聞く機会がないが、プロになれるのは一握りで、同様の悔しい想いをした人が大勢いる。
一方、プロになった人が過去の努力を語ることはよくある。ここで「同じ努力をすれば、プロになれる」と思う人もいるわけだが、実はそう簡単ではない。
男子高校生は、身長が175cmしかなかったとする。僕自身、全国大会常連の強豪高校でコーチをしていたが、男子高校生の全国大会で活躍して、注目を浴びる選手たちは、180cmでも背が低いと言われてしまう。
あくまで僕の感覚的な話にはなってしまうが、身長175cmほどでプロになる選手には、輝かしい能力がある。例えば、身長差を感じさせないジャンプ力、力強いスパイク、ブロックアウトの技術、他の人にはないレシーブ力などである。
こうした人たちは、自分の劣っている部分をよく理解しており、それを補おうと努力をしている。身長がそもそも高い人は、意外にもジャンプ力を上げようと努力することが少ない。
これは、高さに余裕があることで、別の能力アップに時間をかけることができるからである。一方、身長の低い選手は、この努力を惜しまない。そして、別の能力アップに対しても負けないほどの努力をする。
この例を挙げたのは、努力の目標とペースを知ってほしいからである。努力の目標として、背が低い選手が特に高さが必要となるスパイカーである限りは、引退するまでジャンプ力の維持と強化が求められる。
しかし、「プロ選手になる」が目標である場合、それほど高さを求められないリベロというレシーブ特化のポジションで生きていく手段も選ぶことができる。
この時点で、「スパイカーとして必死に高さと闘っていく」か「リベロとしてレシーブに特化していくか」を選ぶことができる。
バレーボールにおいて、背の低さはハンデとなってしまうが、そのハンデを負ってまでもプロになる選手は存在する。この背景には凄まじい努力がある。これが、目標に対する想いの強さである。
NBAと努力の方向性
アイザイア・トーマスという選手をご存知だろうか。アイザイア・トーマスは、身長が175cmほどしかない。NBAはバスケットボールの最高峰のリーグで、全世界のバスケットボール選手の目標となる舞台である。
屈強な肉体を持つ、2mを超える選手が沢山いる中で、アイザイア・トーマスはプロ選手として活躍した。アイザイア・トーマスはポイントガードというポジションで、仲間に指示を出し、パスを入れるというチームの司令塔である。
アイザイア・トーマスの武器は、ポイントガードの優秀さだけでなく、自らの得点力にもある。スキを見つけては自身でドリブルで切り込むドライブと言われる攻撃とスリーポイントシュートがそれに当たる。
マッチアップした選手は、アイザイア・トーマスの背が低いといっても、一切目を離すことができない。彼は多彩かつ俊敏なフットワークで相手を翻弄し続ける。つまり、背が低いことを技術と俊敏さで補ったのである。
自己理解で基盤をつくる
バレーボール、バスケットボールの例は、高さが重要であることが前提になっているが、これに対して選手自身が自分の弱点を知り、それを認めた結果、別の部分にセールスポイントを見出したと言える。
心理学では『自己理解』と言ったりもするが、これがどんな努力においても重要になる。
例えば、勉強して良い大学に進みたいという目標があっても、賢い人と同じ努力をしても上手くいかないことがある。そこで「自分の目標の立て方は自分に合っているのか」や「自分に合った方法を実施できているのか」を考えなくてはならない。
また、学習に対する理解力がないのであれば、人よりも時間を費やして努力するという方法も間違っていない。
モチベーションの維持
実はこれが最も難しい。目標を掲げる上で、理想を語るだけなら誰でもできるわけである。どのように、いつまでに実現させるか、までを考える必要がある。
目標とその過程はセットで考えると良い。できる人は、頭の中で目標と計画まで考えている。1ヶ月でここまで実現可能である。半年でここまで、1年あればここまで実現できる、とおおよその目標設定をしたあと、それを細かく1週間で、1日で、と区切っていく。
これは高校生でも同様で、3年間をいかに計画的に過ごすかで、進路実現の可能性を高くすることができる。僕が勤務していた工業高校では、電気工事士や電験3種といった難しい資格を取得できることが売りだった。
教員が細かく計画を組み、積み重ねていくシステムが構築されていた。一方、高卒で有名電気会社に就職することができれば、そこらの大卒の人より高い給与が望めることもあって、生徒のモチベーションも高かった。
よくできる生徒は、高校1年生の段階で、計画を組み始める。学校生活に慣れた頃には、2年生で電気工事士を取得し、2年生の1回目の受験で電験3種の1つか2つは合格する。3年生の受験で電験3種を全て合格する。学校の成績は、クラスで上位を取り続ける。といった具体的な目標設定をした上で、わからないことがあれば、教員に質問し、より早い段階で、参考書や過去問に手を出していた。
努力が続かない理由
努力が続かない人を見ていると共通点がいくつかあることに気づく。まずは、目標が高すぎて現実的でないことだ。プロの選手になれる確率を、プロ選手の人数/全競技人口で、単純だが算出してみたことがあるだろうか。
プロ選手になれる確率を、仮に3%とする。この3%に自分が入り込めるほどの『武器』があるかどうかを考えてみよう。例えば、身長やジャンプ力である。それも普通ではいけない。
中学生やの大会のパンフレットを見て、参加選手の最高到達点を見てみる。少なくとも、都道府県でトップ5には位置していないと実現は難しい。勿論、例外はある。少し劣るけど、他の人にないレシーブ力や巧みさがある場合は、スカウトの目に入るだろう。
努力を続けるために大切なのは、『もう少しで手が届く』という位置にいることである。
そして、もう1つ。努力が続かない人の共通点は、性格である。負けず嫌いで、自分の意思を貫き通せる人でなければ、努力の継続は難しい。プロ選手には闘争心の高さがある。負けてしまったり、上手くパフォーマンスが発揮できなかったときに、「今日は調子がよくなかったから仕方ない」と思う人は少ない。
勿論、マインドを切り替えるという意味では、悪くない考えではあるが、少なくとも悔しさを感じ、トレーニングや練習で、その失敗を改善しようと試みるはずである。
このように失敗や責任を自分に向けることは、非常にストレスになり得る。しかし、このストレスを前向きに捉えて、さらなる高みを目指すことができるのが、精神力の強さと言える。
レジリエンスという概念
心理学では、レジリエンスという概念が注目されている。レジリエンスは心の弾力性といった意味で、ストレスに対して立ち直る力だったり、開き直ってダメージを軽減したりするような個人の特徴のことである。
人間なので、酷い経験をすれば落ち込んだり悲しんだりすることは当然のことではあるが、より高い目標を立てて、努力を継続し続けられる人は、このレジリエンスが備わっていて、いわばストレスに強い。
皆さんも周りを振り返ってみてほしい。会社の社長、良いか悪いかはおいておいて、強く生きている人の中で、レジリエンスが高い人がいると思う。その人たちがどのようにストレスと向き合っているのか、どのように努力を継続しているのかを聞いてみるか、まじまじと観察してみると、自分でも取り入れられそうなことが見つかるかもしれない。
まとめ
努力を継続するコツは、①目標を正しく段階的に設定すること、②自己理解を図って自身を振り返ること、③目標を分析して『もう少しで手が届く』位置にいること、④ストレスに立ち向かう工夫をすること、が挙げられる。
そして、努力をすれば成功するという絶対的な理屈は存在しない。そのリスクを理解した上で、目標の向かって努力してほしい。がんばれ。