ホームスクーリングで学力を担保するには【不登校支援】

不登校の支援を考える上で、適応指導教室(教育支援センター)やフリースクールに通うという手段もあるが、それらに通うことも困難な場合がある。そこで、今回は『ホームスクーリング』に着目して話をしたい。

ホームスクーリング

ホームスクーリングは、主に保護者や家庭教師、通信講座などが子どもに対して勉強を教えるということになる。勿論、独自の方法で子どもの学力を担保しようとする方もいるわけだが、注意しなければいけない点もいくつかあるので整理したい。

ホームスクーリングを選択しようと思っている家庭は、以下のポイントを考慮してみてほしい。

①目標設定

まず、どの程度の学力を身につけるべきか、目標を設定する必要がある。何も目標を設定しないままホームスクーリングを行うと、勉強に対する動機が低く、身が入らないばかりか、勉強の質も低くなってしまう。

目標は、おおよそ高校卒業程度を考えるとよい。例えば、高等学校卒業程度認定試験に合格することができれば、短大や専門学校、大学の受験資格を得ることができる。たとえ小中高が不登校であっても、大学等に通い、社会で生きていくための『稼ぐ力』を身につけることができれば、生きていける。

また、高校には通信制高校がある。小中が不登校でも、通信制高校に進学すれば、教員免許を持ち、進路指導にも詳しい学校教育の恩恵を受けることができる。

②勉強時間の確保

ホームスクーリングでは、いつ勉強してもよいという状況になりやすい。学校教育では勉強する時間が決まっていて、周囲の同年代の人たちと似た歩幅で前に進むことができる。しかしながら、ホームスクーリングは、自分で計画を組んで適切に実行するか、保護者が管理をするか、という方向性に至りやすい。

その際に、計画の甘さや息苦しさも考慮に入れるべきである。よく『勉強は量より質だ』という人がいるが、この真意は『絶対量を超える場合は、量より質が重要になってくる』という意味で、量が少なすぎれば、いくら質が良くても学力は伸びない。

学校教育では、5時限か6時限は授業がある。ホームスクーリングでは、最低でも1日5時間を目処に勉強時間を設定するとよい。勿論、1つの教科に偏ってはいけない。大学進学を目指すのであれば、国立大学であれば5教科を、私立大学の一般入試であれば少なくとも3教科を、勉強しておきたい。

③勉強の質の確保

ホームスクーリングで、保護者が勉強を教える場合、保護者の学力が、ほぼ直接的に子どもの学力に影響を与える。

例えば、保護者が大学で教育学を専攻していた人と、高校卒業後に就職して工場で働いている人とでは、少なくとも大学進学を目指す場合においては、前者が有利となる可能性が高い。逆に、子どもが工業系の仕事に就くことを目標にしている場合は後者が有利になる可能性が高いだろう。

この意味で、子どもの目標を知り、それを応援するために、どの程度の質を目指すのかが見えてくる。保護者の方が、勉強を教えることに自信がないのであれば、高校からでも塾に通わせたり、実績のある家庭教師を雇うことも考慮したい。

④社会性スキル

不登校の研究で幾度となく指摘されているのが、社会性スキルの問題である。ホームスクーリングでは、同世代とのコミュニケーションの機会が著しく減少する。学習塾に通い、同世代の友達と会話する機会があるだけでも大きな違いとなる。

イジメや人間関係の不和で不登校に至るケースもあるが、イジメは加害者が悪いだけで、他の人とのコミュニケーションまで断ち切ってしまうのは、危険かもしれない。人間関係の不和についても、たまたまソリが合わなかっただけで、趣味や興味を共感し合える人と出会うことで、すんなり解消できるかもしれない。

良くない人と接することで、人間不信に至る気持ちは理解できる。しかしながら、社会人となり、仕事をするようになれば、ほとんどの仕事は人間関係を必要とする。どこかで立ち直って、時分の将来のために一歩を踏み出してほしい。

ホームスクーリングで、社会性スキルを育むには、アルバイトやボランティアが個人的には良いと思っている。社会人になると、社会の理不尽さに気づくことになる。理不尽を働く社会がダメだ、人がダメだ、という理屈はまさに否定の仕様がない事実であるが、どの時代においても消滅しないものであるとも言える。

アルバイトで、上司からの指示を受けて行動に移すこと、仕事上の人間関係を上手くやり過ごし、最低限のストレスで仕事をしていくこと、こうした世渡り上手なスキルを身につけることが、大切となる。

⑤自己主張のスキル

以前、テレビ番組の中で、とある有名大学の出身の方が、勉強はできるけど社会で上手くいかないという嘆き話をしていた。大学のブランドもさることながら、自分の努力を強く肯定してほしい意思が働いてのことだった。

少し厳しい現実かもしれないが、社会人では仕事ができるできないかで、その人の価値がおおよそ評価されてしまう。いくら勉強ができても、そのプライドが邪魔をして仕事の成績がよくなければ、『〇〇大学出身なのに……』と言われてしまうこともある。

学歴は、自分の努力の証ではあるが、名刺には使えない。あくまで会社に所属する一社員でしかない。学歴は上手く利用しないと、逆に作用することもあるので注意が必要である。

さて、ホームスクーリングでは、会社でどう振る舞えばいいか、自分の主張を周りの人に聞いてもらう手段や手順を教えてもらえるわけではない。これは、学校でも教えてもらえないことで、学校に行かないぶん、時間があるのであれば、アルバイトやボランティアといった社会経験を積んでおくのも、賢い選択かもしれない。

⑥学力を担保する

学力というとテストの点数だけが重要だと勘違いされてしまうが、教育における学力とは、副教科や特別活動、道徳性など、学校教育におけるあらゆる学び全てを指している。

例えば、ホームスクーリングでは、体育や技術・家庭、音楽などの時間を設定しないし、設定したところで実施できない場合が多い。そこで、特に必要なものだけを抽出して考えてみてはどうだろうか。

例えば、身体的健康を意識して、毎朝ランニングをしてもいいし、ストレッチをしてもいい。将来のことを考えて、ゴミの捨て方や料理の仕方を勉強してもいい。家で教えることが難しければ、習い事をしてもいいし、単発の〇〇教室に通ってもいい。

もっと言えば、学校では教えてくれないことを、どんどん教えてあげればいい。例えば、高校生であれば、銀行口座の開設、公共料金の支払い、など大人になったときに必要なことを教えてあげればいい。

⑦進路指導

ホームスクーリングを選択する場合に、学校との関係を断ち切ってしまう人がいるが、あまりおすすめできない。学校には、それなりのデータがあって、就職や進学を支援する力がある。もし、学校に嫌悪感があったとしても、これは利用したほうが賢い。

不登校児は毎年のようにいるため、通信制高校への進学などは既に実績がある。経験豊富な教員がいれば、なおさら頼ってみてもよい。ホームスクーリングや学習塾、家庭教師も、進路指導だけはできない。不登校にも様々な理由があるが、可能な限り、籍がある学校との連携は上手くとっていたほうがよい。

不登校,教育心理学

Posted by Cozy