PBL(Project Based Learning)とは【デューイの教育方法論】
教育方法論において、PBLという方法があります。教員の方でも、知っている方は少ないのではないでしょうか。というわけで、今回はPBLについて詳しく解説していきます。
PBLとは
PBLとは、Project Based Learningの略で日本では「課題解決型学習」と訳されています。PBLの「P」は、ProblemやProgramとされることもあります。
デューイという人物
PBLは、アメリカの教育学者デューイ(Dewey,J.)が提唱した学習理論です。デューイは、プラグマティズム(道具主義)を持つ教育者でした。デューイは教育学だけで教育方法論を考えておらず、心理学や哲学・宗教の影響も受けています。
心理学においては、機能主義心理学を基礎として、いかに実用的な学びを教育の中で促すことができるかを考えています。実用的というのは、ただ教師が教えて知識としてだけで終わる方法ではなく、ある課題に対して実際に考え、解決していくことで、思考力や問題解決力を向上させようとする試みのことです。
デューイは、バーモンド大学でダーウィンの進化論やオーギュストの実証主義哲学を学んだあと、ペンシルベニア州で高校教師、バーモンド州で小学校教師を経験します。その後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で心理学博士号を取得します。大学院ではカントの心理学を学んでいます。そして、ミシガン大学で勤務し、30歳で教授になっています。
デューイは、ミシガン大学で勤務したあとも、シカゴ大学で実験学校、コロンビア大学でニュースクールを創設するなど、教育を心理学や哲学を軸に研究していきました。
デューイによる初のPBL
そして、デューイはマックマスター大学の実験学校において、初めてPBLを実施しました。
その当時のPBLは社会科の授業で行われ、子どもにテーマを与え、そのテーマに対して、「本当に正しいと思いますか?」などの質問で、子どもに疑問を挙げるように促しています。
デューイは、課題の答えの正誤よりも、課題に対して疑問を抱き、その疑問を解消する方法を考え、実際に行動するという過程を重要視しています。
PBLは、現代の日本教育で流行しているアクティブ・ラーニングの1つとして、今でも実践されています。
日本におけるPBLの実際
PBLは教科書や参考書の内容を覚えていくような従来の教育方法ではないため、それなりの回数を重ねて慣れていくことで効果が上がっていくものです。
日本においては、社会科の授業で「自分の町を知ろう」といった地域の歴史を学ぶような実践が行われています。しかしながら、中学生になると受験ありきの勉強が始まるため、PBLの機会は減っていきます。
そして、大学や大学院における講義では、また実践の機会が増えるようです。余談ですが、僕の出身大学院の三重大学では、各学部の講義でPBLが用いられています。
大学におけるPBLの実践
実際に、僕はTA(Teaching Assistant)として、大学生にPBLの講義をしたことがあります。
最初に教授者である僕がテーマと実践例を紹介し、学生は実践例を自身のテーマに照らし合わせながら、活動的に思考・実践する中で、学んでいきます。
僕は、臨床心理学と社会心理学のPBLを行いました。どちらも180分✕15回の講義でした。教育学部だけでなく生物資源や人文、看護学部の学生が受講していました。
臨床心理学のPBLでは、映画を臨床心理学の知見で説明するという内容でした。これには臨床心理学の知識が必要ですし、根拠となる論文にも触れる必要があります。
社会心理学のPBLでは、実際に研究テーマと研究方法を決めて、それを観察や実験によって検証するという内容でした。これにも根拠が必要になりますし、このPBLで卒業論文の進め方がわかるようになるというものでした。
他学部の子もいるので、ヒントは多めに出していましたが、この講義を経て、心理学を自身の専門に活かせるという声も多数ありました。
また、僕は教育科学の中の学校心理学を専門としていましたが、教育方法論の講義として、数学や国語、英語など他の教科におけるPBLも経験しました。専門の大学院生や内地留学生の現職教員の方たちと、議論しながら、効果的な教授法を作成したりしました。
PBLを講義した経験から
PBLは、小学校や中学校の研究授業などで行われていますが、単発で実施しても児童生徒は混乱したり、上手く学習に繋がりません。PBLを有効的に実践していくためには、小学校のときから実施して慣れていくことが大切です。
高校生や大学生のように思考力や理解力が増している状態でも、単発では上手くいかないことがあります。あと、正解がないということで、日本の受験競争に対する勉強には、なかなか適用できないという難点もあります。
一方、僕の聞いたところでは、高校での実践もあります。大学院でPBLを学んだ現職教員が勤務に戻った際に実践を繰り返しているようです。しかしながら、各学校の特性や教師の取り組み方など、条件が色々とあるため、有効性が示されている研究論文は少ないです。
少し話が変わりますが、『日本協同教育学会』という学会があって、僕が大学院生のときに、同大学で学会が開かれたためスタッフとして参加したのですが、PBLの実践例を報告される方もいました。もし、PBLを学びたい方は、こうした学会に参加するのもおすすめです。