青年期におけるアレキシサイミア
はじめに
今回は、学校臨床において意外に多いと考えられているアレキシサイミアを詳細にまとめていく。
アレキシサイミアの概念的理解
アレキシサイミアは、失感情症とも呼ばれる。ただし、失感情症という語彙だけを見て勘違いしないでほしい。アレキシサイミアは「感情が失われている」わけではない。
アレキシサイミアの提唱者であるSifneos,P.E.(1973)は、アレキシサイミアの特徴について以下のように説明している。
①感情を識別し、感情と情動喚起に伴う身体感覚との識別の困難
簡単に言えば、自分が抱えている感情「悲しみ」や「怒り」などが識別できない。また、胸が締め付けられる「悲しみ」や頭に血がのぼる「怒り」など身体感覚と感情の連動が識別できない。
②自己の感情の知覚や言語表現することの困難
簡単に言えば、感情を生起する場面に遭遇して脳内では感情に伴う神経伝達物質の分泌や他の身体反応が起こっているにもかかわらず、自分自身は感情に気づいていない。また、知覚していても口頭で説明できない。
③空想の乏しさと限定された想像過程
簡単に言えば、こう考えれば「気分が晴れるだろう」や「良いことがあればいいな」といった空想が少ない傾向がある。また、ネガティブな方向に物事を想像しやすい傾向がある。
④自己の感情が伴わない表面的なことを述べる(外面性に関する思考が多い)
簡単に言えば、自身の状況を相手に伝える際に客観的かつ物理的な説明をすることが多く、自身の心の状況や抱いている感情について説明することが少ない傾向がある。
アレキシサイミアの一例
アレキシサイミアは、上述にある通り主に自身の感情の知覚と言語表現に困難を示す。本来、人は誰かに相談したり愚痴を言ったり、あるいは自身のストレス状況を認識した上で気分転換などを行い、自身を調整する。一方で、アレキシサイミアの人は、それができない。
児童期や青年期において見られることが多い印象であるが、児童期においては表現能力の未熟さにより、大きな違いが見られないため発見しづらい。
一方で、青年期(高校生や大学生の年齢)では、その違いが明確になる。言語能力があるにもかかわらず自分の現在の状況を客観的に捉えることが難しい人がいる。
例えば、支援者に「困りごとは何?」とか「今どんな気持ち?」と聞かれても自分の困りごとや気持ちが把握できないために、回答できない人たちがいる。
これにより言語化されず自分でもよく分からない「モヤモヤ」したものが、胸の中に滞り、ジワジワと胸中を圧迫し続ける。
相談できそうな大人や友達が近くにいても、どう説明していいのか、どう助けを求めていいのか、途方に暮れているのである。
ある女子高校生の話(フィクション事例)↓
ある女子高校生が遅刻や休みが続くようになった。担任と保護者で情報を共有して、その原因を探った。しかし、大きなトラブルどころか体育や目立つ場面に少し苦手意識があるものの成績も優秀で、普通の女子高校生と何ら変わりなかった。
その後、保護者の意向によりスクールカウンセラーのカウンセリングを受ける事になった。担任から「カウンセリングを受けてみよう?」と説得された際、本人は首を傾げていた。
保護者が聞いても「困っている事は特にない」と答えていた。一方で、時々、嗚咽しながら原因不明の涙を流し、母に泣きつくことがあった。学校を休む時は、朝からぐったりした表情を浮かべ、泣きながら休みたいと話すのです。
保護者は凄く心配していました。原因がわからないため身動きもとれず、SCに繋がったことは家庭としての支えとなった。カウンセラーは学校領域で経験が豊富な方だったが、担任や授業担当の教員の話から最初の面接では過剰適応や境界知能だと感じていた。
その後、面接は3回目。SCに繋がってから1ヶ月が経過した。発達検査を実施したが、これといって問題はなかった。カウンセラーも手応えを感じられず、手詰まりとなっていた。しかし、些細なことから事が一変して動き出した。
この学校では、遅刻で登校した際に職員室で途中入室のための手続きを行わなくてはならない。ある日、その手続きを行った教員が「しんどいみたいね」と声をかけた。
無言で頷く女子生徒に対して「表現できないモヤモヤがあるんやね」と優しく続けたとき、女子生徒がワンワンと泣き出したのだった。
この教員が担任に情報共有し、この情報がカウンセラーに届いた。そこでカウンセラーはハッと気づき、アレキシサイミアに関する書籍や論文で調べ出した。医療領域の知り合いのカウンセラーに症状等の情報を聞き、アレキシサイミアの可能性があると児童精神科に繋いだ。
その後、児童精神科の医師によりアレキシサイミアの診断が下り、本人にとっても保護者にとっても原因が分かったということで安心したようだった。
カウンセラーから教員へ辛い状況を語り返すような声かけやどんな配慮があれば助かるかを本人と検討するといったことを指導したことで、女子高校生は少しずつ通常通りに登校できるようになっていった。
治療と支援
アレキシサイミアの原因は明確にわかっていないが、おそらく脳の機能に問題が生じているという研究はいくつか存在している。上記のフィクション事例において児童精神科で診断が降りたと記載したが、実際は非常に診断が降りづらく、うつ病や適応障害など診断されることが多い印象にある。
治療に関しては心理療法において感情の言語化を促していって、困った時に他者に助けを求められる程度に、自分の感情を表出できるように訓練していくことが適切だろうと考えられる。
支援に関しては、学校現場において担任や保健室の先生、SCが連携して日頃から当該生徒を注意して見守ってあげることが重要な支援となり得る。
最後に
僕自身、はっきりとアレキシサイミアと分かる人、あるいは診断がないがおそらくアレキシサイミアだろうという人に出会ったのは片手で数えられる程度である。
学術的な理解はできているつもりだが、経験として詳細は掴みきれていない現状にある。もし貴方自身あるいは周りに、この記事を読んで「症状が同じだ!」と感じられた方がいれば、まず病院やクリニックで診察を受け、学校や職場で得られる支援を受けてください。きっと自分の理解が進むだけでも気持ちが楽になることでしょう。