【中高生の親御さんに読んでほしい】事例から学ぶ劣等感
こんにちは。フリースクールCOZYの中津です。
僕は、大学院で学校臨床心理学を学び、高校教員を経験したあと、不登校の子たちの居場所を作ろうと、このフリースクールを開業しました。
高校の教員をしていると、自分に全く自信が持てない子や他者に凄く敵対心を抱く子、褒めてほしい絡んでほしいとしきりに話をしにくる子、に出会うことが多いです。どれくらい多いかというと、この3つで全体の10%はいるかなと感じるくらいです。
今回は、これらの心象に影響しているものとして、『劣等感』という感情を取り上げてお話したいと思います。
劣等感の意味
劣等感の意味は大きく2つあります。1つ目は「他者と自分を比較する際に生じる否定的な感情」、2つ目は「理想の自分と現在の自分を比較する際に生じる否定的な感情」です。
今回は、1つ目の「他者と自分を比較する際に生じる否定的な感情」という意味の『劣等感』について掘り下げていきます。
劣等感を抱く3人の子どもたち
【事例①】兄弟の比較。斜に構えるA君
A君は、話しかけても反応が薄い子でした。部活動では兄の影響で中学校から始めたバスケ部に所属していました。バスケは好きらしく、他の部員と仲良く話す姿も見られます。しかし、授業中は机に伏せて眠るなど、授業に向かう態度は勉強への拒否感すら感じました。ある時、部活動でも顧問の先生の指示に従わず、衝突したことがあったようです。
僕は、A君は根は真面目だと思っていました。他の生徒に「やればできるタイプなのにやらない」とか「掃除とか行事とかでもサボらないし、学校にも休まず来ている」と聞いていたからです。
A君には、3年生の兄がいました。僕は、その兄に家での様子を聞いてみました。すると、「母親と毎日ケンカしている」「いつかグレてしまいそう」と話すのです。僕は「なぜそんなにも母親と仲が悪いの?」と聞きました。
A君には、他にも大学生の兄がいるらしく、その大学生の兄と3年生の兄は勉強も部活動も良くできて、それを見て育ってきました。能力的に見れば、A君も良くできると思います。A君のバスケのプレイスタイルは、兄の影響を真っ直ぐ受けており、よく似ていました。つまり、2人の兄のことは好きで、憧れすら感じているように見てとれます。
はっきりと原因がわかったのは、そのあとでした。実は、A君の家は自営業で、父親が電気関係の会社を経営しているようです。3年生の兄も進路は大学で電気関係の学科に進むことがわかりました。母親は、家庭の大変さをよく見てきていて、子どもたちには手に職をつけさせてあげようと、必死に働きながら、厳しく育ててきたようでした。
それが途中から「お兄ちゃんみたいに…」と言うようになってしまい、A君にとっては、それがプレッシャーにも感じたのでしょう。2人の兄に劣ると、強い劣等感を抱くようになったのです。
僕は、A君を掴まえては、頑張りを褒めるようにしました。部活動での活躍や普通教科で良い点を取ったことなど、他の先生と情報共有したことを伝えるようにしました。A君が2年生になる頃には、他の先生から変わってきたと報告を受けるようになりました。幸い、他の先生も褒めるようにしてくれたので、次第に自信がついてきたのだと思います。
「自信がない」「斜に構える」生徒は本当に多いです。その背景には、失敗ばかりだった、怒られてばかりだった、大人を信用していない、などの理由があることが多いです。今回の事例は、「兄との比較」でA君自身の良い部分が埋もれてしまっている形でした。親の想いとは逆に、どんどん良くない方向にいってしまう子どもがいて、互いに苦しむことになってしまっています。
発達心理学の観点で説明すると、高校生の時期は、自分のアイデンティティを見つけようと、試行錯誤して苦しむ子が多いです。劣等感は、中学生の時期での発達課題です。劣等感に打ち勝って、高校生では自分探しがスタートします。A君は、そのタイミングで、身近な兄に比べられてしまったために、自分を見失うことになったのです。
【事例②】他者に敵対心を抱くB君
B君は、勉強もスポーツも良くできる子でした。とても正義感が強いのですが、先生たちの間では、強すぎる正義感が心配だという声が上がっていました。
ある日、生徒同士の喧嘩がありました。その一人がB君でした。何やらもう一人の生徒の悪ふざけを見たB君が怒って取っ組み合いになったそうです。これも、実は年に数回はある、よくある出来事です。生徒指導で落ち着かせて、互いに話をさせて、納得させます。突発的なケンカなので、それほど深刻化もしませんでした。
別の日、また生徒同士の喧嘩です。またしてもB君です。テスト返しの時に、思ったより点数が良くなかったB君は苛立っていたそうです。そこで、他の生徒がちょっかいをかけたらしく、喧嘩に発展したようでした。
また生徒指導で落ち着かせたのですが、ちょっかいを出した生徒が悪いとはいうものの、B君は2回目の出来事なので、今回の喧嘩の件とは別に、話を聞くことにしました。
B君は、小さい頃から真面目で、完璧主義のようなところがあって、生きづらさを感じていたと言います。意識し始めたのは中学生の時で、何となく周りから期待されるようになって、自分は真面目でなくてはならないと思うようになったそうです。
社会的に望まれ、周りから個性を貼り付けられた状態と言えるでしょう。B君は、高校生になって、苛立ちや不安を常に感じるようになり、辛いと話してくれました。勉強のレベルが上がって、中学生の時のように点数が取れなくなって、親に報告したり、友達と点数を見せ合うのが苦痛だったそうです。
B君の完璧主義を緩和するべく、まず平均点や偏差値を見直すことにしました。B君は、そもそも勉強ができたので、学年で上位にいました。中学生の時のテストは、80点や85点以上で成績が5になるくらいが目安ですが、高校では偏差値によっては70点でも成績が5になることもあります。つまり、これまでの捉え方とはズレがあることに気づいてもらったのです。
次に、真面目や正義感が強いことは良いことだけど、それを周りに押し付けたりしてはいけないこと、自分の長所として捉えて受け入れてみること、上手くいかないときもあって当たり前だということ、などの話をして、捉え方を変える努力をしました。
考えてみます。ありがとうございました。と退室時に見せてくれた表情は少し明るく見えました。その後は、愚痴を言うこともありましたが、喧嘩はなく卒業していきました。
この事例では、自分自身が作り出した劣等感が根本にあるようでした。自分の捉え方の偏りにより自分を苦しめ、また親や周囲の期待に答えようと頑張りすぎた部分もあります。どうしても学校でのテストや成績は他者と比較してしまうものですが、勝ち負けや数字にとらわれずに、自分に必要な学習を、必要なぶん身につけるという姿勢で望んでほしいものです。
おそらく「真面目が嫌」という生徒は多いです。ちょっと崩したい、ちょっと楽したい、こう思うのは自然なことです。勿論、努力は後に結果として表れるものですが、無理をして自分を見失ったり、心を病んでは、折角の努力が報われないままになってしまうこともあります。「適度」が大切ですね。
【事例③】褒めてほしいが止まらないC君
C君は、普段からどの先生に対しても、「先生!」と声をかける子でした。実習中でも「先生!できました!これでおっけーですよね!」と話しかけているようでした。周りの生徒は「かまってちゃん」と揶揄する子もいたようです。
これは、たまたまC君と同じ中学校の出身の子から聞いた話です。C君は、勉強が苦手で、中学校時代は親にも先生にも見離されていたようです。それから親にも先生にも敵対心を抱いている時期があったそうですが、高校では褒めてくれる先生が多かったことで、中学校の時より随分楽しそうにしていて、良かったと話してくれました。
ずっと褒めてほしかったのでしょう。部活動でも実力がついてきて、親が見に来てくれたときは、いつも以上に張り切っているのが感じとれました。勉強も苦手ながらも、テスト前には、しっかり努力しているようでした。
臨床心理学の観点では、愛着障害傾向があるような子でしたが、高校で褒められることが増え、褒めてほしいという行動はあるものの、楽しそうに学校生活を送れたみたいです。
この事例も、勉強での劣等感が原因になっていますが、もう少し掘り下げると、C君の良いところ、コミュニケーション能力が高く、誰でもフレンドリーに接するきとができるところ、努力家であるところ、を見てあげることが必要だったと思います。
勉強は苦手というのも、人には凹凸があるものです。短期記憶ができない、識字障害があるなど、今回の事例では出てこなかった個人の特性も影響しているかもしれません。頑張ってもできないことを、さらに頑張るのは辛いものです。劣等感というのは、案外、必要のない部分で抱いてしまっていることがあるかもしれませんね。
最後に
事例は事実を作り変えて掲載しています。ほぼ創作と思っていただいて結構です。
ただ、高校生ではよくあることです。こうした悩みは親に直接は話さないことです。第三者である教員だからこそ、子どもは心を開いて話してくれます。一方で、長い時間、関わっていても分からないことは沢山あります。事例①のように兄弟、事例③のように友達から話を聞いて見えてくるものもあります。
親として、「子どものために」と思って、やっているつもりが子どもを苦しめていたり、親の立場だからこそ、子どもからすると話しづらいことがあります。こうしたことに気づいた場合は、ぜひ第三者に相談してみてください。知らない情報が得られたり、支援に繋がることがありますよ。
さて、今回はここまでです。最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
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