【不登校支援】親の愛情と不登校の関連についての言及
不登校の原因として、しばしば「親の愛情」が議論されています。実際に虐待や不適切な養育、機能不全家族によって育ってきた子の中には、「親への愛着」が発達的に得られておらず、それが原因となって苦しんでいる子もいます。
しかしながら、これは不登校の全てのケースに言えることではありません。生まれながらにして、発達障害や不安を抱きやすい特性、非行に陥りやすい特性などがあり、不登校の原因は様々です。
とはいえ、子どもと真剣に向き合い続けている保護者からすれば、この「親の愛情と不登校の関連」を指摘されるというのは酷く心を傷つけることでしょう。
そこで、まず申し上げておきたいのは、「養育や教育の成功」を定義するのは不可能だということです。子どもが夢を叶えれば成功なのか、子どもが健康であれば成功なのか、それは各々の考え方によります。
親への愛着と不登校
実は、この関連については研究されています。林田・黒川・喜田(2018)では、親への愛着が学校適応感に正の影響を与えていると示唆されています。
これは、親への愛着が高い場合は学校適応感が高く、親への愛着が低い場合は学校適応感が低いということを表しています。
再び強調しておきますが、これが全ての原因ではありません。最後まで読んでください。
■厳密にいえば、親への愛着の「愛着不安」と「愛着回避」が低い場合に学校適応感が高い。つまり、負の相関がある。
■学校適応感とは、不登校傾向を示す尺度として用いられているもので、「居心地の良さの感覚」「被信頼・受容感」「劣等感の無さ」の3つの下位尺度で構成されています。
林田・黒川・喜田 2018 教育心理学研究
親への愛着
愛着については、昔から研究されていて、人は親から愛情を受けて育つ過程で、人間を信頼してもよい対象として捉える「基本的信頼」が得られるとされています。
母親に世話をしてもらい、自分ができなかったことを少しずつできるようになっていきます。オオカミ育てられたアマラとカマラの話にもあるように、子は人に育てられることで、言語や会話、文字など基本的な生き方を学んでいきます。
ハーロウのアカゲザル実験では、アカゲザルの赤ちゃんを親から切り離し、肌触りの良い布製の代理母と肌触り悪い針金製の代理母を与えた結果、布製の代理母にしがみつく時間が長かったとされていますが、その後、アカゲザルの子は、成長していく過程で攻撃性が増したり、奇怪な行動をとるようになったりするという結果もあったようです。
以上より、人は親から愛情を受けることが重要だとされてきているのです。生まれながらにして、育児放棄をされたり、虐待により保護され施設で育ったりする子は、信頼や愛着に問題を抱えることが多いです。
しかしながら、先程の林田ら(2018)の研究では、母親への愛着が低い場合でも友人関係に対する満足感が高い場合は学校適応感を高められるとも考察しています。
この結果から、たとえ苦しい育ち方をしてきた子でも、周囲の支えがあれば、適応的に生きていけるだろうと推察できるのです。例えば、里親や施設で育った人たちでも、親代わりの愛情を受けて育つことで、立派な大人に成長していきます。
親への愛着と不登校
家庭で育っても、愛着を親に向けることができない子がいます。親が共働きで家に一人でいることが多かったり、親に厳しく育てられて甘えた経験がなかったり、塾や習い事ばかりで親と一緒にいる時間や思い出がなかったり、こうした背景が巡り巡って、不登校に至ることはあります。
発達障害は先天的な脳の機能の問題ですし、社交不安障害や場面緘黙症なども先天的な要因があります。たとえ親が愛情を目一杯に注いだとしても不登校になることはあります。
いじめや友人関係の問題は、学校という環境や人間関係における問題です。たとえ社会性スキルが高くても、不適応的な環境に巻き込まれてしまえば、不登校に至ります。
このように不登校の原因は、本当に様々です。「親の愛情がないから不登校になる」という方もいらっしゃいますが、それが全ての理由でないこと、それぞれの理由があることを理解していただければ幸いです。
最後に
親に愛情を向けられない子の中には、教師や友達に対して試し行動をとったり、見捨てられ不安を強く生じたりする子もいます。もし、そのような子と遭遇した場合は、カウンセラーを紹介してあげてください。
皆さんが「誰にも話さないで」と秘密の話を持ちかけられた場合、訓練を受けていない人は支えきれずに、共倒れしてしまうケースがあります。「貴方の味方だから…」と説得して、カウンセラーに繋いでください。
自傷や他害がある場合は、カウンセラーが判断して医療に繋ぎます。これを教師だから友達だからと個人で責任を持って関わり続けることは、皆さんのためにも、この子のためにも、おすすめしません。
ぜひ、適切にカウンセラーに繋いで、カウンセラーと学校と保護者と友達と、そうしたチームで支える気持ちを持って関わってあげてください。