電信柱【ホラー／怪談】

2022年8月7日

仕事の帰り、歩いていると後ろに人の気配を感じました。振り返ると誰もいません。次は後ろから革靴で歩くような足音が聞こえました。振り返ると誰もいません。

ストーカーかもしれないと思い、友人に電話をかけ明るく人がいる道を選んで歩きました。

「もしもし、いきなりごめん。ストーカーに追いかけられているかもしれなくて、電話いい？」

「え、近くの人に事情を話して助けてもらったほうがいいよ。交番とか駅とか。」

「わかった。そうする。電話は切らないでね。」

電話で話しながら後ろを振り返ると電信柱の陰で何かが動いた。あそこにいる。そう感じた私は、通りかかったスーツ姿の男性に助けを求めました。

男性は30歳くらいで身体は大きく、事情を説明すると直ぐに状況を理解し、少し考えたあと「見てくるから待ってて」と鞄を盾のごとく持ち直し歩いていった。

男性は「誰もいなかった」と直ぐに戻ってきた。念の為と提灯のついた小さな居酒屋の前でタクシーを呼んでくれて、その日は帰宅することができました。

ただ、タクシーの中で電話していた友人が「さっき女の人いた？」と聞くのです。「え、いなかったよ。男の人に助けてもらって、タクシーの運転手さんも男性で、女の人は会ってないよ」

「うそ、女の人の声が聞こえた」

震えながら出した自分の声が友人には別人の声に聞こえたのかもしれないと思う一方で、あの電信柱にいたのはこの世の者ではないのかもしれないと思いました。

ストーカーにせよ幽霊にせよ怖くて眠れず朝までSNSや動画を見て、気を紛らわせていました。部屋の明かりを付けっぱなしにすることで、ストーカーへの警戒にもなると思っていました。

カーテンの隙間から明かりが見え始め、ようやく朝がきました。会社は休むことにし、親に電話をして来てもらいました。

「駆けつけられるところに住んでいて良かった」と仕事を休んで父が来てくれました。私は父と一緒に実家に戻ることにしました。会社には事情を説明し、とりあえず2週間はリモートワークを認めてもらいました。

「あれ、昨日の電信柱」と私が指を差すと父は電信柱の周りを少し見たあと、立ち止まり少し考えていました。悩みながら口を開き「ここは」と話し始めました。

電信柱には人探しの紙が貼ってあり、この付近の防犯カメラで撮影されたのが最後に20代の女性が行方不明になっていたのです。

日本では年間8万人が行方不明になっている。多くは高齢者の認知症や子どもの迷子らしいが、事件による行方不明や意志のある疾走も含まれる。

この女性の行方不明は未解決事件となっており、警察の推測として防犯カメラの死角で女性に何かが起こったのではないかとされているらしい。

私は父とともに有名な霊媒師に会い、お祓いと供養のため献花をしました。それから仕事の再開まで何も起こることはなく、初めの怖さも消え、徐々に日常が戻っていきました。

ひさしぶりの出社、皆が心配してくれて途中まで一緒に帰ったりタクシーを同乗して使ったりして、1ヶ月が過ぎました。

ある日、女性社員が誰も一緒に帰れず、たまたま出口で会った上司の男性と途中まで一緒に帰ることになりました。「大変だったね。その日から2ヶ月でしょ。ストーカーも諦めたのかな」

「そうだといいんですけど」

何気ない話をしながら頭の中では、もう少しで電信柱のあるところだ、と警戒していました。

「この辺ってほんとに人気がないね。あ、電信柱ってあれ？何でもない電信柱に見えるけどね。」

私の警戒心は最大になっていました。いつもは避ける道でしたが、上司が急ぎの用事があるというので回り道せずに通ることになったのです。

「あ、電信柱のこっち側に小さな神社がある。」本当は近づきたくなかったが、上司と離れるのも怖く数m近づきました。確かにお稲荷さんが祀ってある小さな神社がありました。

「2ヶ月も待ったんだよ」

上司が私の手首を掴み、口を塞ぎました。

その後、上司は連続婦女暴行殺人犯として、逮捕されました。私はお稲荷さんの神社裏で遺体として発見されました。数人の女性とともに今も上司を怨み続けています。