夕暮れの職員室【ホラー/怪談】

2022年7月23日

私が小学生のとき、大好きなA先生がいました。当時、25歳くらいの男性教員で、昼休みは男子とドッジボールをしたり、女子にも優しく声をかけてくれて、他のクラスの子たちからも人気がありました。

優しくて若くてイケメンということで、高学年の女子はバレンタインデーにお菓子を渡したりもしていました。今でも困りながらも優しく微笑むA先生を思い出します。

ある日、突然に先生が替わってしまいました。朝の会で教頭先生が「お家の都合で急に教員を辞めることになりました。寂しいことですが、仕方ありません。」と話しました。

小学生向けの当たり障りない話だったと思います。そして、新しく35歳くらいの女性のB先生が担任になりました。B先生も優しくて、すぐ人気が出ました。

B先生が担任になった次の日、教室の掲示物が全て剥がされて、何もない状態になっていました。先生が替わったからとはいえ、寂しい気持ちになりました。

先生が替わるだけで教室の雰囲気がガラッと変わります。男子が騒いで楽しかったクラスが、上品に大人しいクラスになった気がしました。

好きだったぶんA先生が忘れられずにいましたが、半年も経つと今のクラスが心地よくなり、4月に学年が上がるときにはすっかり忘れてしまっていました。

私が高校生になり、将来の進路を考えたとき、A先生との楽しかった日々を思い出し、「小学校の先生になろう」と決めました。

大学で教員免許を取り、採用試験も一発で合格できました。大学の友達とも喜び合い、少し先の不安も抱きながら社会人としての一歩を踏み出しました。

教員としての生活が始まりました。慣れない授業や学級経営で毎日くたくたでした。教員はブラックと言われていましたが、子どもたちの笑顔に救われながら1年をやり遂げました。

教員2年目の春休み。子どもの登校がなく新年度の準備も落ち着いた日、先輩教員たちとちょっと贅沢な弁当を頼んで昼食を食べました。学年主任の教員の奢りです。

「僕も若い時は先輩が外食に連れて行ってくれてね。色んな話を聞いてもらったものです。」

会議室で賑やかに食事をしていると、教員になった理由を皆で言い合う流れになりました。私は、当時の話をしました。学年主任の先生が「出身どこですか?」と聞くので、「〇〇小学校です」と答えると他の先生たちが少し怪訝そうな表情をしたように思えました。

「そろそろお開きにしますか」と、片付けをして仕事に戻りました。その日の帰り際、学年主任の先生に引き止められました。

「話すかどうか迷ったんですけど、有名な話でいつかは耳にすると思うので、」と話し始めました。私は、少し嫌な予感がしていました。

「実は、A先生は亡くなったんです。」

この言葉に唖然としました。

「その教頭先生が話をした前日に首を吊って…」

「……そうだったんですね」教員の忙しさやストレスを思うと納得できる内容です。

「彼は、教育に熱意を持った素晴らしい教員でした。子どもからも教員からも人気があった。しかし、一方でそれをよく思わない教員もいました。」

「教員を長くしていると、よく聞きます。人間関係のいざこざやパワハラ、A先生は狙われてしまったんです。」

「誰にですか?」

「……B先生を含め数人です。」

呆然とするしかありません。

「保護者が勘違いするような噂を児童に刷り込ませていたようです。執拗な嫌がらせですが、当時は気づく者がおらず、ある児童が噂をB先生から聞いたと保護者に話したことで、判明しました。」

「A先生は気づいていたのでしょう」

学年主任の先生は、当時まだ中堅教員でした。A先生を気にかけ、相談にも乗っていたそうです。度重なるクレームに日に日に弱っていくA先生に声をかけるが、あまり力になれなかったようです。

ある日曜日、A先生から「デスクの上に手紙があります。」とだけ書かれたメールがきたそうです。慌てて電話するも繋がらず、学校に向かいました。

職員室の扉を開けると、B先生の机の上、空調のパイプにかけた紐にぶら下がるA先生がいたそうです。呼びかけ身体を叩くも反応がなく、一人で降ろすこともできず、警察に連絡、既に亡くなっていたそうです。

「警察が来るまでの時間、目を背けながらも現場維持のため職員室の前にいました。そこで手紙のことを思い出し、A先生のデスクを見ると、手紙がありました。」

その手紙には「これは復讐です。」と書かれていたそうです。