苦と楽【ショートショート】
ある田舎町に苦行と楽行という二人の青年がいた。二人は同い年でお互いに普通の夫婦の間に生まれた。ただ、苦行は先を見据えて自分を追い込み苦労しがちの性格で、楽行は人生を楽して生きることを考える性格だった。
苦労は幼いときから回り道を好み、経験したことがいずれ自分のためになると信じていた。楽行は苦しい経験から逃れるためにずる賢い方法を好んだ。
苦行は楽行に言います。
「楽行。そんなに楽な道ばかり選んでいては大人になってから食っていけなくなって困ることになるぞ。」
楽行は苦行に言い返します。
「苦行よ。そんなに苦しい道ばかり選んでいては生きることが嫌になってしまうぞ。」
このときお互いが少しずつ将来への不安を感じました。
それから10年の月日が流れました。
苦行は自分の経験を活かして会社を起ち上げ社長として富と名誉を得ていました。苦行は言いました。
「そらみろ楽行。俺は充実した人生を送っている。俺の生き方は正解だったんだ。」
楽行は定職につかず悠々自適に生活していました。楽行は寝転びながら言いました。
「どうしたら楽に生きていけるか考えて、苦行の会社に投資してたんだ。苦行は真面目だから失敗しないと思った。」
楽行は苦行が会社を起ち上げ育て上げてきた10年の間、全財産を苦行の会社に投資して資産形成をしていたのである。
楽行は続けます。
「苦行のおかげで先30年は楽をして生きていけそうだ。俺は責任や拘束が嫌いだ。アルバイトで生活資金を稼ぎ、投資を続けて資産を増やしていく。もう人生を逃げ切れた。苦行ありがとう。」
苦行は自分のこれまでの苦労を顧みました。非常に泥臭く多大の責任と拘束があります。この先も簡単には辞められない。思い返せば遊んだ経験は殆どない。
楽行は言いました。
「苦行のことは凄く尊敬している。俺にない知識や専門性を持っている。今からどう頑張っても苦行のようにはなれない。でも、俺は俺の生き方で満足している。今が楽で幸せなんだ。」
この日から苦行は仕事で苦労しているとき、楽行が楽して生きていることが頭に浮かんで仕事に集中できなくなってしまった。
苦行は会社を売却した。その資産を投資に回し、苦行と楽行は自由を得た。